「さてさて…。三井を探すか。」
昨日は花道くんに連れられてバスケを思う存分楽しんでしまった。
今日こそは三井を探さなくては。
そして探そうと思って、ふと思いついたことがある。
そう、三井のクラスを見に行けばいいのだ。
例えクラスにいなくても、来てるか来てないかくらいはわかるし。
クラスの人に話も聞けるかもしれないし。
よし、いざ!
そう思ったとき、ふと足が止まる。
「……三井、何組なんだろー。」
………………
「わ、わからん。まったくわからん。……三井、何組なの。」
ちーん。
そんな音が聞こえてきそうな雰囲気である。
そしてひなのは気分が落ち込む。
「ちょ、ほんと私他人に興味ないのかも。探そうって言ってもクラスすらわかんないとか。ありえないでしょ。」
あはは、と乾いた笑いがもれる。
こんなところを友人に見られたら罵られること間違いなしだ。
今この場にいないことに感謝しつつ、どうしようかと考える。
誰かに聞こう。
そう思った時、
「あ、ひなの先輩。」
そう声をかけられ、ひなのはそちらを見る。
そこには笑顔がステキな女の子。
「晴子ちゃん。」
「こんにちは。」
「こんにちはー。」
にへらと笑って返すと、彼女もにこりと返してくれる。
「どうしたの晴子ちゃん。三年の棟に。赤木くんに何か用?さっき木暮くんと部活しに出てったけど。」
「……え?」
ぽかんとした彼女の表情。
あれ、なんか前にもこんなやり取りを誰かとした気がする。
晴子ちゃんは不思議そうな表情を見せる。
「ここ、一年の棟で「わかったもういいです。そうです私は方向音痴なんですよ。」
「…まだ、なにも言ってないですよ、先輩。」
開き直ってそう言うと、晴子ちゃんは天使(私なんかより晴子ちゃんのが天使だよ、花道くん。)のような笑顔でこちらを見る。
「ひなの先輩、迷ったんですか?」
「うふふ、そうだよ、もう言っちゃうけど、ついさっきまで自分のクラスにいたんだよ。考え事しながら歩いてたらここにいたのよ。どうかこんな私のことは気にしないで!」
ウフフフ、と悲しさを紛らわしながら言えば晴子ちゃんは少し困ったような表情をしつつ口を開いた。
「先輩、よかったら一緒に行きませんか?バスケ部!」
「――え?」
突然のお誘いと同時に、ひなのはハッとする。
この優しい子は、学校で迷ったと自暴自棄になってるあほな先輩に気を使って、遠回りに案内しますよと言っているのか…?
な、なんて優しい!!
こんな優しさ断るわけがない。
なにしろ本当に下駄箱どこかわからない。
「ありがとう晴子ちゃん!…………ん?」
そこまで言ってひなのは先程の晴子ちゃんの言葉を思い出す。
バスケ部?
玄関でなく?
ん?と頭にハテナを浮かべていると晴子ちゃんは一人でしゃべり続ける。
「バスケ部に!この前ひなの先輩も来てましたよね!私、流川くんのプレーがいつもすごいなぁって…それに…、あっ桜木くんもがんばってるし!昨日の流川くんもかっこよかったな…。」
「ん?おいおい晴子さん?どうしたどうした。流川くん?花道くん?流川くん?」
「ルカワくん…。」
話の途中からこちらの声は彼女に聞こえていないようである。
(心なしか彼女の目がハートに見える。)
ひなのは首を傾げて晴子ちゃんの目の前で手を振るが、微動だにしないところを見ると、どうやら晴子ちゃんはマイワールドに突入しているようだ。
ぽかんとしていると、晴子ちゃんの横に二人の女の子が現れた。
「まったくもー、この子はまた…。」
「先輩、ごめんなさい…、晴子、バスケ部…っていうか流川くんのことになると他のことに目が向かなくなるっていうか…、」
「る?…流川くん?あ、そーか。流川くんのことがスキなのか、晴子ちゃん。」
そう納得すると二人は頷いた。
そうか、流川くんか。
まぁバスケもうまいし、背も高いし、イケメンだからなあ。
そこまで考えて、ふと晴子ちゃんの隣にいる女の子たちと視線が合う。
するとハッとしたように彼女たちは口を開いた。
「あ、わ、私、晴子の友だちで藤井っていいます。」
「私は松井です。」
「あ、私は一応三年で、春川です。」
なんだか最近一年生の知り合いが急激に増えたな。
こんなの部活やってたときみたい。
少し嬉しさを感じながら、藤井ちゃん、松井ちゃん、晴子ちゃん(まだ目がハートで藤井ちゃんたちに手を引かれて歩いている。器用だ、器用だぞ晴子ちゃん。)と歩いていく。
なかなか面白い子達で、話をして歩いていると、あっという間に体育館に辿り着く。
……ん?体育館?
気がつけばもう目の前は体育館だった。
あれ、おかしいな。
今日こそは三井を探す予定なんだけど。
話をしながら歩いてきたらうっかりここまで来てしまった。
おっと、戻るか、と松井ちゃんたちに声をかけようとしたときだ。
背後から大きな声で名前を叫ばれる。
「ひなのさん!!」
「だ、誰、私の名前を恥ずかしいくらい大声で…。」
誰かと言っても声を聞けばすぐにわかる。
振り返れば、練習着に着替えてボールを持った花道くん。
彼は瞳をキランキランさせる。
「うおーっ!!ひなのさんっ!!今日も来てくれたんすか!!」
「あ、いや、」
「カンドーですよ!!そんなに天才桜木の姿を見に来てくれるなんて!!期待の現れっすね!!はっはっはっはっ!!」
「花道くん、」
「いやー、嬉しいです!!」
「ちょっと、」
「今日も特訓ですね!!」
「聞いてる?」
「今日も鬼のような練習やり遂げてみせますよ!!」
「うふふ、そうだね。がんばれ花道くん。」
もういいや、誤解を訂正するのがめんどくさい。
(花道くんの思い込みは激しいと思う。)
今日もなんだかバスケな気分になってきたぞ?
どうせ、三井は2年もほったらかしだったんだ、今日も明日も変わらない。
…ん?なんかついこの前も同じことを考えた気がする。
あはは、そんなまさか。
気のせい気のせい。
っていうかもう気にしない。
流れ流され
(ちなみに今日は晴子ちゃんと来ました!!)
(エッ!!)
(晴子ちゃん可愛いよねえ、花道くん。)
(な、ななな、そ、そりゃあモチロン…!!)
(大変だねえ、花道くん。道は険しいよ。)
(……ん?)
((晴子ちゃんが流川くんのことスキとか、レベルが高い。)…私はいつでも花道くんのこと応援してるからね!)
(??はい!がんばります!うおー!!今日もやるぞ!!)
(あははは。あれ、流川くん。)
(ちす。)
(がんばれー。)
(ルカワてめーはひなのさんにメーワクかけるなよ!!)
(おめーはメーワクかけねーのかよ。)
(なにー!?)
(バカモンがぁ!!練習中だ!!)
(あはは、元気だなあ。)
130314執筆