1.同級生は占い師
──つるぎ座のあなた!ごめんなさい、今日は最下位です。何をやってもアンラッキーな1日になってしまいそう!ラッキーカラーは金色!ラッキーアイテムはテディベアです。本日も良い1日を過ごして下さいね!それでは皆さんまた明日!
そんな占いを聞きながら彼女は制服に袖を通す。
そもそも、だ。
私は占いなんて信じないタイプだ。
星座だけでそんなに的確に当てられるわけないし、ラッキーカラー金色ってなに?
金色のカラーのもの持ってる人いるの?
ラッキーアイテムのテディベアは持ち歩くの?
ただのヤベェ奴じゃない?
──と、捻くれたことを考えている癖に何故このチャンネルをつけているのかって、占いの前が天気予報だからだよ。
ちなみに今日は雨が降るらしいから傘を持って行こうと思います。
高校に入学して、もうすぐ半年だがまだまだ新しい気分で気合は充分だし、傘もお弁当も持って家を出たわけですよ。
気合が入ったまま自分の席へ向かっていると自分の席の隣に既に座っていた男子がこちらを見た。
「おはよう。」
「おはよう迅くん。早いね。」
「ああ、今日は朝ちょっとボーダーに用事があって早く家出たから。」
「そうなんだ。」
うん、と返事をもらい会話は終了かと思いきや彼はまだこちらを見ている。
なんだろう。
イケメンにじっと見られるとドキドキする。
隣に座るその人はなんと、かのボーダーに所属している。
彼女が通うこの高校は三門高校、この三門市は異世界からの門(ゲート)が開いた場所である。
異世界からの訪問者、近界民(ネイバー)は突然現れ、そして三門市を襲った。
その三門市を救ったのはこれまた突然現れた人たち──彼らはボーダーと名乗りネイバーを倒していった。
あの時は正直、世界滅亡だとか思ったし、怖いし嫌な思い出しかない。
しかし時が経てば経つほどに非日常は元通りとなっていった。
かつてネイバーが壊していった場所は危険区域となり、その中心部にはボーダーの本拠地ができた。
そして、三門市で近界民が出没するのは今となっては日常となっていた。
自分は今では三門市にやや近い市外──蓮乃辺市からこの三門高校へと通うことになった。
あえてこの三門市の高校に通う理由はなかったのだけれど元々の希望校であったことを言い訳にした。
今思えば住み慣れた土地から完全に離れるのは寂しかったのかもしれない。
と、少し話は逸れたがこの人、迅悠一くんはそのボーダーで働いてるのだから衝撃だ。
同じく嵐山准くんも同じクラスにいるが彼はボーダーの中でもめちゃくちゃ有名人らしく、友人はこのクラスでよかった…!と感動していた。
嵐山くんは広報だからとテレビ出演してるのだとか。
(知らなかったと言うと友人に「まじか…。」と驚かれた。)
迅くんは最初はボーダーの人だとは知られていなかったが嵐山くんと話をしているのを見た女子が聞いた(調査ともいう)ところ迅くんもボーダーだと判明したわけである。
その情報が周囲に広がるまでおよそ3日程。女子のイケメン情報を手に入れる力はすごい。
つまりボーダーの人間が同じクラスに2人。
男子は憧れ、女子はときめいたわけである。
自分も女子の端くれ、もちろんこの市を守ってくれている彼らにときめき、入学当初、出席番号が近く席が側であった迅くんには「すごい、素敵、かっこいい。」と思ってしまったわけです。
そんな迅くんとは席は近いものの特に親しく話をしていたわけではなく、「おはよう」「窓開けてもいい?」「前回の授業のノート見せて」などとふつうにふううの会話しかしていない。
おまけに彼らは“任務”たるものがあるということで、早退したり休む事もよくあった為、会話もそんなにしたこともない。
とりあえず迅くんはよく休む隣の席のボーダーの人、であった。
何回かの席替えを挟んで久々に迅くんの隣にいるわけであるが、彼との距離感は以前と変わりない。
そんな迅くんがこちらを見た事にドキリとするのはしょうがないと思う。
何も言わない迅くんに首を傾げれば彼はにこりと笑った。
「島津さん、今日ジャージ持ってる?」
「?今日体育あるし、持ってるけど。」
「そっか、そうだった。それならいいか。島津さん今日水難の相が出てるから気を付けて。」
「──は?」
水難の相って、おいおいあんた占い師か?と脳内ツッコミをいれたあとで一体彼は何を言っているのだろうかとぽかんとしてしまう。
突然ジャージだなんて、なんの話題なんだろうかと思っていれば続けて発せられたそのセリフに私はどんな顔をしていたのだろうか。
頭の中がぐるぐるし始めた私を見ながら彼はニコリと微笑むだけであった。
そして日中をふつうに過ごし、ジャージの出番は体育だけだったわけですがいやほんとなんなの。
今日の朝の占いより謎が残るわ。
ちなみにあの朝の出来事は友人にも話はしていない。
みんなの憧れボーダーの迅くんが怪しい占い師だとか言ったとしても私が叩かれてしまうだろうことは目に見えていた。
しょうがない、人は有名人には甘いのだ。
人望の差…と自分に言い聞かせながら自販機に向かっていたその時である。
こちらに歩いてきている女子生徒が躓くのが視界に入った。
そしてその女子が両手に紙コップを持っているのが見える。
──あ、ヤバい。
一瞬避けようかと足を横に動かそうとするが自分が避けてしまうとこの人激しく転んでしまいそうだと簡単に想像できて思わず足の動きが止まってしまう。
「──あっ、」
そんな声と共にばしゃりという音、そして冷たさを感じる自身の上半身にですよね、と遠い目をしてしまう。
視線を前に向ければ体制を崩した状態で半身がこちらとぶつかったまま固まる女子生徒。
紙コップ(容量増しのでかカップ)は彼女の手に握られたままであるが中身はほとんど溢れてしまったようでひんやりする制服はもちろん飲み物によるものである。
「……。」
「ごっ、ごめんなさい!せ、制服が、」
一瞬の沈黙のあと、あわあわしながら女子生徒は離れる。
そしてポケットに手を入れる彼女を見て恐らくハンカチを貸してくれるつもりなのだろうなと理解して手で制する。
「ジャージもあるし大丈夫なんでお気になさらず。」
一言だけ返し、その場を離れる。
すれ違う人が濡れた制服をみて驚いた表情をするのを見ながら早足で更衣室へと向かう。
──ふと、今朝方のことを思い出した。
「今日水難の相が出てるから気を付けて。」
「……。」
いやいやそんなばかな。
ないない、と自分を叩き更衣室で着替えるとその不幸な出来事を聞いた友人は爆笑、先生には「お前どうした今から数学だぞ」と言われ、くすくすとクラスメイトにまで笑われる始末。
そしてふと隣の席に視線を向ける。
迅くんは頬杖をつきながらこちら見ていて、そして笑う。
「どんまい。」
「──!!」
なんかっ、なんか!腹立つっ!!
あ、やっぱりっていう顔してた今!
あれっ、迅くんはイケメンでみんなの憧れのボーダーでときめきで素敵でかっこよくて…でもその含み笑いは腹立つっ!
1人で彼の表情と葛藤していれば上の空がバレたのか当てられた。
数学は1番苦手だ。おまけに授業聞いてなかった最悪。
「…体育じゃないし授業は聞いてないし問題は解けないし先生泣いちゃうぞ。」
「ジャージそこまでイジるの先生!問題は解けなくてごめんね!!」
さいあくだ。
*****
「──いやーもう最高!今日はすごい笑ったわ!」
「それはそれは楽しんで頂けて良かったです。早く部活いけば?」
今日半日をジャージで過ごした私を見ながら爆笑する友人に遠い目をする。
「ごめんて!しかし今日ツイてないね!今日占い最下位だっけ?」
「ついてないのは認めるけど占いとか最下位とかは関係ないから!」
「はいはい。ほんと占い嫌いだよねー。」
「嫌いとかじゃなくてあんな不確かなものを信じてないだけだから!」
「そのわりに見てるよね。」
「それとこれとは話が違うの。」
はーい、わかったわかった。と適当な返事をされた上に本当にさっさと部活へ行ってしまった友人に嘘でしょ、とがっくりする。
本当にイジりまくって去ってたよあの子。
そりゃ早く部活行けばって言ったけどさ、…なんか寂しいんですけど。
…まぁいいや帰ろう。
朝はいい天気だったがつい先程からザーザー大雨が降ってきている。
しかし天気予報を見てきた私は傘があるわけで帰れます。
天気予報見てきてよかったと心から思いました。
よかったー最高についてるよ自分。え?水難の相?何の話ですか。
ジャージ姿のままふふんと自分に言い聞かせながら昇降口に向かう。
ちなみに制服はとりあえず水洗いしたけど午後で乾ききるわけもなかったのでビニール袋に詰めてリュックに入れた。
しょうがない。家でしっかり乾かそう。
そしてもう一度洗おう。
靴を入れ替え傘を開こうとした時、玄関で立ち止まっているクラスメイトを見て止まる。
「あれ、どしたの。」
「あ、島津さん、いやちょっと傘忘れて。」
あははと笑う彼女は確か小さい弟妹がいて共働きの両親がいるからお迎えとかお世話とかしてるって言ってた。
「弟くんのお迎えいくの?」
「うん、そうなんだけどね。まぁ通り雨っぽいし、ちょっと待ってから行くつもり。」
そう言って空を見上げる彼女に今日の天気予報を思い出す。
今日は夕方から夜まで降る予報だった。
それにちびっこを待たせてはかわいそうだ。
このあとバイトがあるんだよなーと頭に浮かんだが彼女に傘を差し出す。
彼女はそれを見てこちらを見て「え、」と言葉をもらす。
「弟くん絶対待ってるよ。迎えに行ってあげて。」
「で、でも島津さんの傘なくなっちゃう、」
「ううん、大丈夫。私用事もないし雨止んだら帰るよ。図書室寄ろうか迷ってたとこだから。」
だから、行ってあげて。と傘を押しつければ彼女は「ありがとう、ごめんね」と言うと傘を受け取り、何度も振り返って申し訳なさそうな表情をしていた。
そんな彼女に何度か手を振りさてどうしようかなぁと頭を捻る。
図書室なんて滅多に寄り付かない場所だし、何度も言うけど今日の天気予報では夜までガッツリ降るのだ。
かと言ってこのまま待っていたらバイトに間に合わなくなりそうだ。
しょうがない、そのまま行こう。
どうせ制服はカバンの中でビニールに包まれてるし、ジャージならどうにかなるでしょ。
電車には乗るけど…まぁ途中にコンビニあるからそこまで耐えればビニール傘が買えるはずだ。
よし、と頷きこの雨の中飛び出そうとすればがしりと手首をつかまれる。
前に進もうとしていたからバランスを崩しかけて後ろに2、3歩下がる。
「おわ、と、と、」
「──あ、ごめん。大丈夫?」
「…迅くん?」
首だけ捻り後ろを見れば手首をつかんだのはどうやら迅くんだったらしい。
ぽかんと彼を見ていれば彼は苦笑いだ。
「図書室は?」
「──ん?あー、」
どうやら彼は先程のやりとりを聞いていたらしい。
目をぱちくりさせ、あははと笑う。
「図書室行くのはやっぱやめたの。雨もやまなそうだし、ほらちょっと先にコンビニあるでしょ?あそこまで行こうかと。」
「いやいやちょっと先じゃないでしょ。コンビニだいぶ先だよ。」
「んー、まぁ大丈夫大丈夫。」
笑ってそう返せば彼はうーん、と悩んで口を開く。
「でもこんな大雨だからコンビニまで走ってもびしょびしょだよ。島津さん、電車乗って来る人でしょ。」
遠いだろ、家まで。と言う迅くんにまぁね、と返す。
電車で来るの知ってるのかと思うも、この三門市では市外からここの高校はわざわざ通う人は少ないのでそんな人がいると印象的なのかもしれないと納得する。
「んー、でも大丈夫だから。私頑丈だから風邪ひかないし。」
「いや、雨に濡れたら風邪ひくよ。」
「え、いやまぁそうかもしれないけど。」
めっちゃ言い切る。と笑って返すと迅くんはぽりぽりと頭をかいた。
うわあ、イケメンは何やっても決まるのか…と心の中で思う。
暫くの沈黙があったが迅くんはスマホを操作して「わかった、ちょっと待ってて。」と言うと止める間もなく颯爽と去っていく。
え、待っててって私のことだよね。
突然取り残された身である自分にこの状況は何なんだと問いかけても答えなどは帰ってこない。
まぁ雨は降り続いているしちょっとくらいなら待とう。
そしてハッとする。
「…まさか水難の相の続きじゃないでしょうね。」
だからあんな真剣に…?と考えた所でハッとする。
いやいや違う違う!
占いは信じないんだってば!
危なかった…と息を吐いていれば迅くんが戻ってきた。
彼を目で追っていれば玄関にある傘立てをガチャガチャと荒らし始めた。
「ん?んん?なにしてんの、」
「あ、あった。」
傘立てを荒らして手にした紺色の傘を持ち上げる迅くん。
いや、“あった”って…。
「それは知らない方の傘なのでは。」
明らかに自分のではなさそうな傘の探し方だった。
確信を持ってそう言えば彼は「ああ、うん。」とアッサリ自分の物ではないと言い切った。
えええ、傘泥棒ですか。
ボーダーが!みんなの憧れのボーダーが!!
頭の中をぐるぐる駆け巡る傘泥棒の文字に何も言えないでいると迅くんは首を傾げる。
「どうしたの?」
「ど、どうしたのって…。傘、」
小さな声で傘自分のじゃないんじゃあ、と呟けばこちらの言いたい事が分かったようで彼は「ああ!」と手を叩く。
「違う違う。これ、嵐山の。」
「嵐山くんの?」
「そうそう。さっき嵐山に連絡して折りたたみ傘借りに行ったんだ。」
あいついつも鞄に折りたたみ傘忍ばせてるから。と笑う迅くん。
わぁ、嵐山くんさすが隙がないなぁ。
完璧が過ぎる。
しかし今迅くんが手にしたのは折りたたみ傘ではなく普通の傘だ。
首を傾げると「折りたたみじゃ小さいから普通の傘持ってけってさ。」と一言。
いやー嵐山くんてほんといい人だねぇと呟く。
自分は持ってきてたのに普通の傘を友達に貸してあげるなんて。
やっぱボーダーの顔は違いますね。
そして数秒間があく。
「…で?」
「で?」
首を傾げれば迅くんも首を傾げる。
え、いやいやなんでオウム返し。
「で、って…迅くんがちょっと待っててって言ったよね。なんか用事あったんじゃないの。」
そう言えば彼はぽかんと口をあけ、そして笑い出す。
「あははっ!いやいや!」
いやいや、って何をそんなに爆笑…。
今日は友人にも爆笑され何故か迅くんにも爆笑され。
一体今日は何なんだろう。
と、遠い目をしていれば迅くんがようやく笑いを落ち着かせたようでごめんごめんと軽く謝る。
そしてボンと傘を開くとこちらを振り返る。
「一緒に帰ろう、ってことだよ。」
「…え?」
何故。
という顔がバレたらしく彼はまたくくっ、と笑う。
そしてとりあえず行こう、と歩き出した迅くんについ慌ててついていく。
しとしとではなくザバザバという音を聞きながら歩いていると迅くんはこちらを見る。
「自分は人に貸してあげて傘なくなっちゃったのに濡れて帰ろうとするから。嵐山なら傘2つあるって知ってたし。」
だから嵐山から借りてきた。
そう言う迅くんにまじでか。と目をぱちくりさせる。
わざわざ借りてかてくれたのか。え、きゅんとする、それ。
「──ま、おれも傘なかったしね。」
「そっ、そうだよね、そりゃそうだ。」
「?」
危ない、きゅんを通り越して惚れるとこだわ。
あくまで“あの人傘ないびしょ濡れになっちゃう自分も傘ないし借りてこよう”だ!
きゅんとした自分が恥ずかしくてブワッと頭まで暑くなる。
ぶんぶんと頭を振って頭を冷やしているとふと疑問が降って来る。
「でもなんで大きい方の傘貸してくれたの?借りるなら普通折りたたみの方じゃ。」
「ああ、おれは折りたたみを借りに行ったんだけど島津さんも一緒に帰るって言ったら“2人なら大きい傘持ってけ”って。」
「嵐山くん神すぎる…!」
そんないい人いんのかと思ってたらいるんだ。まじで神だわ。
1人静かに納得していれば迅くんはくくくっ、と笑っていた。
「え、口に出てた?」
「出てた出てた。ははは、島津さん面白いね。」
「それは、いい意味なのかなぁ。」
「あはは、そうだね。」
「そうだね、って。…なんか迅くんのイメージ変わったよ。」
そう言うと彼はこちらへ視線を向ける。
「え?なにどんなイメージ?」
にこりとする彼を見上げ、「みんなの憧れかっこいいボーダー隊員だよ。」と返す。
すごい素敵かっこいい。イケメン。などなどの言葉は本人を前にしては中々恥ずかしいので口にはしません。
「いやーみんなの憧れかぁ。ははは、でも嵐山の方がみんなの憧れだよ。あいつ優しいし。」
迅くんはおっと、と水溜りを避ける。
必然的に自分も横に逸れながら確かに、と口を開く。
「や、でも迅くんも優しいと思うよ。」
そう言うと彼は驚いたように目をぱちくりさせると「え?おれ?」と本当に不思議そうにする。
そんな彼に頷く。
「だって、そんな会話した事ないクラスメイトの為に傘借りに行ってくれるんだもん。優しいよ。」
まあ自分も傘持ってなかったからかもしれないけど。と笑えば彼も笑う。
「そうか、おれも優しいのか。」
「そうだよ。」
へへへと笑っていると「でもさ、」と迅くんは口を開いた。
「島津さんも優しいと思うよ。」
「えっ、何を急に。」
急な話の流れに驚けば「だってほら、今日の昼。」と話し始める彼に首を傾げる。
「今日の昼、別に避けようと思えば避けれたんでしょ。ぶつかった人。」
「えっ、いや、そんな事は、」
「いやいや避けれたよ。だけどその人が転ぶよりも自分が濡れる方を選んだんでしょ、島津さんは。」
「……、」
確かに、あの瞬間避けようと思えば避けれたかもしれないけど、この人怪我しちゃいそうだなとも思ったけど。
でもそれは咄嗟にそう考えただけで。
避けようかなと受け止めようかなが行ったり来たりして結果避けるのが間に合わなかっただけなんだけど。
あれ、ていうか迅くんはその現場は見ていなかったはず?だけど。
あれ、実はあの辺にいたのかな。
考えがぐるぐるしていう内に、返答がない事を肯定と捉えたらしい迅くんはさわやかな笑顔で「ほら、優しいでしょ。」とさわやかに言った。
何度も言うけどさわやかに!
「それにほら、ついさっきだって図書室行くから大丈夫とか言って傘貸してあげてたけど自分もすぐ帰ろうとしてただろ。自分も用事、あったんじゃない?」
「そ、れは。別に優しいとかじゃなくて困った時はお互い様っていうか。ちびっこは雨に濡れたら風邪ひいちゃうでしょ!私は大丈夫だし!」
そう力説すると迅くんはうんうんと頷きながら「確かにちびは風邪ひきやすいけどね。でも島津さんが風邪ひかないとも言い切れなかったよ。」と返す。
なんだか、ああ言えばこう言う、って感じだなぁ。
「…意外と迅くん捻くれ者だね?」
「ははは。じゃあ島津さんはお人好し、かな。」
「褒められてる気がしない!」
「その言葉はまるっと返すよ。」
ぐっ、確かに自分もだいぶ失礼な事を言っている。
ていうか今更だけど同じ傘に入って歩いているのは何気に恥ずかしいな。今更だけど。
距離が近いのよ距離が。
イケメンと同じ傘に入るのはやばい。
そう思っていた時に前方に見えたコンビニに「あ、」と口を開く。
「どうしたの?」
「コンビニ!あそこまででいいよ!ありがとう迅くん。」
あそこで傘買って帰るよ。とコンビニを指差してそう言えば彼も視線をコンビニに向けたがすぐに視線をこちらに戻す。
「ああ、別に駅まで送るよ。」
「え、でもわざわざになっちゃうでしょ。それに私自分の駅ついてからまた傘なくなっちゃうし。」
どっちにしろ傘買うことになるからこので買ってくるよ。とそう言うも彼の歩みは止まらない。
「大丈夫。島津さんが電車に乗ってる間に雨は止むから。コンビニ傘なんて勿体ないよ。」
「…ええ?今日の天気予報は夜までザーザー降りだよ。」
「いや、やむよ。」
「何を根拠に…。」
「やまなかったら明日ぼんち揚げあげるよ。」
「えええ、なんであえてのぼんち揚げ。」
「ははは。」
そう笑ってコンビニを通り過ぎていく。
「やまなきゃ駅で傘買うといいよ。」
「…そうだけど、…迅くんが駅までいいなら、」
「うん。大丈夫。」
そう笑う迅くんに、本人がいいならいいやと無理矢理納得する事にした。
ていうか迅くんの色々な言葉の言い回しが独特で、そう、やっぱり、
「迅くんは占い師なの?」
「──ん?」
驚いた表情でこちらを見る迅くんにその表情は初めてだなぁと思う。
いや自分でも変な事言ってるなとは思うけども。
でも言い出しっぺは迅くんだ、と開き直る。
「だって、今までそんなに話した事なかったのにいきなり“水難の相が”とか言ってたし。それにさっきから言い回しが何ていうか独特?占い師?みたいな感じだから。」
「なるほど。確かにそうかもね。」
「確かにそうかもねって…。」
占い師って認めるのか。
普通は違う違うとか言って否定するんじゃないのか。
え、ガチで占い師なの?
疑問しか残らないんですけども。
丸い水晶の前で手をかざしている迅くんの姿が頭に浮かぶがパッと振り払う。
いやいや落ち着け自分。
隣を歩く迅くんは自分とは裏腹になんだか楽しそうだ。
そんな迅くんを見上げて「でも、」と口を開く。
「私、占いとか信じないから。」
そう、例え今日の“水難の相”とやらが昼の紙コップ事件や人に傘を貸して濡れて帰ろうとした事が当てはまるとしても、正直ひとっつも信じていない。
たまたま、すべてが偶然の出来事に決まっている。
そうハッキリ言い切れば迅くんはまた目をまん丸くしてそしてこちらを見た。
しまった、気分を害してしまっただろうか。
そう思っていれば迅くんは数秒こちらを見た後に大笑いし始めた。
怒るでも気分を悪くさせたようなわけでもなく、突然の笑いに逆に戸惑ってしまう。
しばらく笑うと迅くんは「はーおもしろ。」と一言。
「えーなにそれどういう感情なの?」
「んー?いや、島津さん、いいキャラしてるよ。」
と、素敵さわやか笑顔を見せる迅くんにまたしてもきゅんとしてしまう。
ちょっと、そのさわやか笑顔はこの近距離では眩しすぎるんですけど。
ひええ、と思わず視線を正面に向ける。
雨はまだザーザー降りだ。
──その後、駅前まで送ってくれた迅くんと別れ、電車に乗り込んだ。
正直、雨はやむ気配はありませんけど。
と明日ぼんち揚げを手に入れるつもりでいれば最寄駅に到着し、改札を出た時に目を疑う事となる。
雨やんでる!!
そう、ぽたぽたと屋根から雨粒は垂れているが、なんと晴れ間まで出ているではないか。
今日は天気予報は夜まで雨だった。
え、嘘でしょ。
いやいやでも私は占いとか信じないんだってば!
こんなのただの偶然に決まってる!
占い師な迅くんと信じない同級生。
(あ、おはよう島津さん。)
(…オハヨウゴザイマス。)
(当たったでしょ?)
(…迅くんにぼんち揚げを差し上げます。)
(え、やったね。)
(でも!そんなの偶然に決まってるから!!)
(ははは。そうだね。)
(なんっか、なんっか悔しい!)
そしてここから彼との腐れ縁、そして占われる日々が始まる。
◯島津小春(15)
占いは信じない派の普通の高校生1年生。
7月が誕生日のつるぎ座。もうすぐ16歳。
三門市外から三門高校へ通う電車通学。
情報には疎いが友人が情報提供してくれる。それなりにアイドルとかイケメンにはときめく。
隣の席の男子がボーダーの人と知って普通にステキなイケメンみんなの憧れ。と目の保養くらいにはなっていた。
迅くん?さわやかだけど中々変わった人だった。
◯迅悠一(16)
もう誕生日はきているので16歳な高校1年生。
夢主は一般人だからサイドエフェクトとかいえないし、謎の占い?の人と思われている。
何故予知を一般人にしているのか、それはいつか書くかもしれない。
隣の席の女子が会話してみると中々面白かったと思っている。
◯嵐山くん(15)
ボーダーの顔でクラスメイトから注目されてる。
今回は名前と彼の傘しか登場しない。
その内普通に登場するはず。
柿崎さん登場すらしなかった。ごめんね。
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