20.わかりあう
「テオっ!!」
「ユーリおじさんっ!」
「テオ!一体なにが、け、怪我はないか!?」
一味を割って進み彼はテオに一直線に向かってきた。
そして膝をつくとテオの体を触り、見て無事か確認する。
それが気恥ずかしいのかテオは「だ、大丈夫だよ。」と言いながら身を捩る。
そんな姿を見ながら、あの日以来の再会であるユーリを見、彼女は「ユーリさん、」と呟く。
その言葉を拾ったユーリはシオンを視界に収める。
「シオン…、っ、──ジャンの次はテオか…?何故、」
「なっ、おいおっさん!シオンは…!」
言い返そうとするウソップをシオンは目で訴え止める。
警戒心を含んだ目で見るユーリにシオンは返事を返す事ができない。
この場は“何か普通でない事”が起こったような現場であり、何を言っても言い訳となってしまう。
そしてジャンに次いでテオまで巻き込んだのは間違いではなく、テオの命は失われるかもしれなかった。
一歩間違えれば未来は違っていたかもしれないのだ。
それに過去にあった事も変える事はできない。
今日の事も過去の事も、全ては彼女がいるせいで起こった事なのだ。
だから、何も言わない。
そんなシオンの姿を見て一味はぐっと何かを堪えるような気持ちになる。
彼女が何も言わないのは“自分のせいだ”と思っているから。
そんなに全てを抱えなくてもいいのにシオンはその荷物を下ろす事をしない。
彼女の本当の事を伝えたいと思ってもシオンがそれを許さない。
それが分かっているからこそ一味は堪えている。
いつもはすぐに反論するルフィもぐぐぐ、と手を握りしめ我慢する。
その空気を変えたのはテオだった。
ユーリの不穏な表情とシオンが黙り込んでいるのを見てユーリの腕の中にいたテオはユーリの服を引き慌てて口を開く。
「ちっ、違うんだユーリおじさん!シオンは、シオンはおれを助けてくれたんだ!あいつらが、あいつらが悪くて、おれは人質にされそうになって、それでっ、それでっ、だから、シオンは何も悪くないんだ!じいちゃんが死んじゃったのも!シオンがやったんじゃなかった!なのに、なのにおれはシオンに酷い事を言ってここから追い出したんだ…!!」
ユーリの腕を掴みながらテオは言う。
そんな風に言ってくれたという事にシオンは目を見開いた。
酷い事をしたのはシオンだ。
シオンがここへ来たせいで彼の世界は崩れ、そして何年も辛い思いをさせてしまったのに。
テオは涙をボロボロ流しながら続けて言う。
「シオンが、シオンが酷い事するわけないって知ってたはずなのに、あんなに大すきだったのにっ、おれはシオン一人のせいにした…!!ユーリおじさんっ、シオンは悪くないんだ!だからおじさん…そんな顔しないで!!」
「テオ…、」
「っ、」
ユーリはテオの言葉に息をのむ。
一体自分がいなかったこの少しの間に何があって、そして過去にどんな事があったと分かったのだろう。
戸惑っているユーリと共にシオンも戸惑っていた。
どうしたら良いのか分からずシオンはそのまま立ち尽くしていた。
そんなシオンの心情を一味は読み取っていた。
1番近くにいたナミがバシンと彼女の背中を叩きテオとユーリの方へ一歩進ませる。
「…えっ!な、ナミっ、」
「あんたが何も言わなくてどうするの?あの子がシオンの為に言ってるのよ。」
「っ、」
それでも、と視線を彷徨わせるシオンを見てナミはため息を吐く。
いつもはのらりくらりとかわしてばかりだというのに本当にこんな時ばかり不器用なんだから、と思いもう一言言ってやろうと思えばルフィがずいっとシオンの前に出た。
「る、ルフィ、」
「シオンちゃんとしろ!あいつ、シオンの言葉を待ってんだ!!」
「で、でも、」
「──逃げんなよ!あとで後悔する!!」
「……!」
ルフィの言葉にはいつも勇気をもらえる。
ルフィだけじゃない、力強くこちらを見守ってくれる一味全員に、シオンは勇気をもらっているのだ。
シオンは深く息を吐き、そして吸うとテオ、そしてユーリの前までいき彼らの視線に合わせぺたんと座る。
「ユーリさん、テオ…あの、私…謝っても許される事ではないのだけれど、ジャンさんの事、ごめんなさい、」
シオンは静かにポツリポツリと話始める。
「私は今日みたいな奴に追われていて、それであの頃も追われ隠れて生きていた。でもジャンさんやテオと会って、こんなに優しい人達がいるのだと知って本当に幸せだった。楽しかった、本当は早く去らなければいけなかったと分かっていたのに。私が、私がいつまでも旅立てなかったから敵に知られててしまってら私を助けようとしてジャンさんは…。…そして今回テオも危険にさらしてしまった。…謝っても許される事ではないって分かってる。それでも、」
次々と言葉は出てくるが謝っても謝りきれない。
何を言っても言い訳のように感じてしまう。
彼らの顔が見れず視線を逸らしながら話す。
緊張した空間であったその中で、明るい声が響いた。
「なーんだ!」
「…テオ?」
彼の声のトーンを不思議に思いふと顔を上げる。
すると彼は笑顔を浮かべている。
それに驚いていればテオは口を開いた。
「あの頃シオンも楽しかったんだな!」
「…?」
テオの言葉にシオンは不思議そうな様子を見せる。
シオンのせいで大切なジャン、そしてテオまでに危害を加えてしまう所だったのに。
何故テオは笑っているのだろう。
「シオン、おれ、あの日、シオンの事を信じる事ができなくてごめん。ずっとシオンの事を恨んでいて、…ごめん。」
「テオ、」
テオの言葉にシオンは息をのむ。
彼が謝る事など一つもないのだ。
「違うわ、あれは、私がそうなるように…したの、それに私のせいでジャンさんが斬られてしまったのは本当だから、だからテオは謝らないでいいの、許さなくていいの、」
シオンがそう言えばテオはぶんぶんと首を振る。
「ううん、もう、おれはちゃんとわかったんだ。じいちゃんが、じいちゃんが死んじゃった事は悲しいけど、…もう誰も恨まない。いつまでもウジウジしてたらじいちゃんに笑われちゃうよ。」
涙を浮かべながらも笑うテオにシオンは言葉も出ない。
話を聞いていたユーリはテオの肩に手を置き目を合わせ頷く。
「シオン、私も信じてやれなくて、本当にすまなかった。あの時、あの状況だけでお前を疑ってしまった。数日だがそんな事する子ではないと頭ではわかっていたのに…だ。」
「ユーリさん、」
なんて優しい人たちなんだろうか。
彼らは、シオンを許してくれるというのか。
シオンのせいで彼らの大切な祖父、そして友人が喪われてしまったというのに。
茫然としていればテオがシオンに抱きついてくる。
「ごめん!ごめんシオン!」
「…っ、」
テオの言葉に、感じる温もりにシオンは言葉が詰まる。
そっと彼の背に手を回し、そしてぎゅっと彼を抱きしめ返す。
「テオ、ごめん…、私もごめんね、」
その様子を一味は一息ついて見守っていた。
どうやらこの島での彼女のわだかまりはこれでなくなったようだ。
「…まったく、本当に手がかかるんだから。」とナミ。
「人と仲直りするのにもこいつにゃ大変な事なんだろ。」とウソップ。
「まァこいつにしちゃあ上出来だろ。」とゾロ。
「おいおいおい…!シオンぢゃん…!なんて君の心は綺麗なんだ…!!よがっだねぇえぇぇ…!」とサンジ。
「本当によかったわね。元気のないのんびりさんはなんだか寂しいもの。」とロビン。
「よかった!本当によかったなシオン…!」と潤みながらチョッパー。
「シオンはおれ達がいねェとなんもできねェんだ!」とルフィ。
シオンは一味へと視線を向ける。
「みんな、…みんなにはいつも心配かけてごめ「シオン?」…?」
「ごめん、じゃないでしょ?まったくあんたはすぐ忘れるんだから。」
ナミな言われた事が少し分からず止まるもシオンはいつものように、へらりと笑う。
「みんな、──ありがとう!」
(さ、じゃあまずこの元“キラー”の2人の検査からね、チョッパー。怪しい薬を使わされていたみたいだし。)
(おう!任せろ!)
(テオ、彼らの事私が勝手に決めてしまってごめんなさい、)
(…大丈夫。シオンの事、信じてるから。)
(…うん、)
(おい、…おれ、おれ達は償う、絶対に。)
(取り返しのつかない事をやってきた、でももう揺るがない…おれ達2人で償っていく。)
(…うん、いいと思う。)
200831執筆
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