19.ゆるす道を



「ここは私に。彼と、話をさせて。」

「…話が通じるようには見えねェがな。」


ゾロの言う通り、目の前のこの男は今、薬の効能を受け一瞬で強靭な力を手にした。
しかし息は荒く、顔の表情は歪み…シオンを捕獲しようとするとは違う何か違うものと戦っているような顔つきを見せる。

シオンには確証があった。
彼、──いや彼らは“白い部屋”のあの声の主──恐らく“キラー”のボスに恐怖していた。
だからきっと、こちらの話に耳を傾けてくれるはず。
人は恐怖に抗い、そして自由に憧れるのだから。
シオンの“話し合い”という言葉に不安な様子を見せる一味。
シオンはルフィへと視線を向ける。


「ルフィ、彼と話をさせて。」


ルフィは一度シオンを一瞥し、ゼェゼェと息荒くこちらの様子を伺っている男に視線を向けると険しい表情を見せる。
しかし数秒後に「わかった。」と頷く。
その返事にナミは「ちょっとルフィ!」と止めるがシオンの表情を見て諦めたようにため息をつく。


「…っ、さっさと終わらせなさいよ。」

「おっ、おれが後ろから援護するから安心しろ!」


ナミとウソップの言葉にシオンは微笑み頷く。
そしてルフィの攻撃を受け、ぜえぜえと息が上がっている男の方へ歩いていく。
すると彼は頭が痛むのか片手で頭を押さえ、逆の手でサーベルをめちゃくちゃに振りながら怯えたようにシオンを見ている。


「く、くるなぁあ!!」

「……、」


シオンは彼から少しの距離をあけ、手に持っていた“春花”を鞘へと戻すと足元へと置いた。


「…!?」


男は驚いた様子を見せ、一味からも「なに武器放してんだ!」「シオン何してんのよ!」などとお叱りの言葉を受ける。
しかしそんな言葉には耳を貸さず、シオンは男へと視線を向けた。


「私は、あなたと対等に話をしたい。隠し武器は全部使ってしまったし、“春花”もここに置く。私は今武器を持っていないわ。だから、耳をこちらに傾けて。」

「…な、」


「あほー!シオンのあほー!」と後ろから非難する声も聞こえるがそれは知らんぷりだ。
ただ彼女は恐怖に揺れる彼の瞳をじっと見つめていた。


「…私も、あなたの気持ちは分かる。あなたは最初から何かに怯えていた。“あいつ”が、怖いんでしょう?」

「…っ!お、おれはっ、」


震える男の手は武器にまで達し、カタカタと刃先が揺れているのが見える。


「私は“白い部屋”で過ごした日々…顔を見せないあの男の声を聞いていた。あの血の通っていないような抑揚のない声、こちらの意思をコントロールされているかのような言葉たち。…あのままあそこにいれば私は顔すらも見せないあの男の言葉に洗脳されていたのかもしれない。あなた達もそうだったはず。どれほどあなた達があの声の主に関わっていたかは知らないけれどどこまでがあなたの意思だった?」

「おれは、ずっと、ずっと前から無理だって、やめたい、って…でもあいつが、」


そう、呟くように言うと男は共にシオンの前に現れたもう1人の男を見た。


「あいつが、ボ、ボスを慕っていた、から、だから命令に背くなんてしない、それに“薬”も受け入れた、だから、だからおれもそれに従った、あいつを、1人にはでき、ない…。」


男の目からはボタボタと涙が溢れてくる。


「あの薬がどんな薬かは分からない、でも、あれを飲むと強く、力が溢れてきて、何も考えれなくなって、きた、…お前が現れて、お前をほ、捕獲すればっ、もう、解放されるっ、そう、思っ、」

「うん。」

「あいつが注射を打って、でもお前に倒されて、おれは、おれは、…!」


バスっと音を立てて男の握る武器は地面に刺さる。


「一度言ったけど、私ね、この数年で色々変わったの。」

「何、を。」


急にすり替わった話題に彼は混乱した様子で彼女を見る。


「前は1人でもいいと思う事の方が多かったけど今はちょっと違うのよ。仲間がいて、良かったと思っている。1人でいるよりもね。…あなたもそうでしょ?」


ふふ、と微笑んで男を見ると男は戸惑った様子を見せる。


「お前は、何を、言いたい…?」

「あなたと、さっきの人、昔ここで私を逃してからずっとここにいたんでしょ?1人でいたよりも2人の方が安心したんじゃない?あの“無機質”なあの場所にいるよりも。だから彼を置いて逃げる事ができなかった。」


そうでしょ?と言うと彼は地面に膝をつける。


「あなた達がした事は許されることではない。それでも、誰にでもやり直すチャンスはある。あの組織にいると永遠にモルモットとなる事を誓うも同然よ。今、どうにかしないと。」

「…でっでも、」


そうあの組織にいる限り、生きているという事は実験台になり続けると同じ事。
解放される時はない。
彼女の話を聞いてゴクリと息をのむ一味。
重たい話をさも当然かのように語る彼女の今までを思うと胸が締め付けられるかのようだった。
しん、としたその空気の中、シオンはへらりと笑う。


「だーいじょうぶ。どこかに身を隠して、あの人とまったり楽しく過ごせばいいと思う。」

「テキトーかっ!!」

「えっ。」


真面目に話していたと思えば急にゆるくなる彼女の話にウソップは我慢できずについツッコんでしまう。
それに目を丸くさせるのはシオンである。


「別に適当なわけじゃ…。」

「適当だわ!なんなんだシオンは!なにが“まったり楽しく過ごせばいいと思う”──だ!自分は身を隠しもしてねェくせによく言うわ!」

「えー、そんな事ないよ。昔も今もあちこち移動し続けてるし、島に長い滞在はしてないわ。」

「手配書に載ってるくせにそんな事なくねェっつーの!」


そう言われてしまえばそうかもしれない。
顔写真までついているあの手配書は恐らく“キラー”も見ている事だろう。
だがしかし、だ。
そもそもあれはこの一味として、アラバスタで目立つような事をしでかしてしまったからああなったわけであって決してシオンのせいではないと言い切りたいと思う。
(“ブルー・ブック”は別枠の話だ。)


「話はそれちゃったけど、だからあなた達も自由になればいい、っていう話だよ。」


ウソップとのやり取りに置いてけぼりになっていた男は最後に言われたシオンの言葉に目を丸くさせ、涙を落とす。


「自由に、」

「…ああでも、ちゃんと罪は償いなさい。」

「償い、」


言われた言葉を子どものように繰り返す男にシオンは「そう、」と呟く。


「あなた達自身がした事にはあなた達が責任を取らねばいけない。」

「っ、」

「ちゃんと、けじめをつける事は大事よ。」


そう言うと彼女は気絶していたもう1人の男に視線を向ける。


「そうでしょう?あなたも、相方の気持ちがわかった所でどう行動するかキチンと考えて、そして自らの行いを理解し、背負って、そして生きていって。」


今までの事を背負って生きていく。
それが如何に難しい事であるのか、それは想像もつかない。
ただしかし、そうしなければ前には進めないのだ。
そして、彼らは今それをするきっかけを手に入れている。

彼と話をしている途中から意識を取り戻していた男の方をチラリとシオンは見る。
相方の本音を聞いて彼はどう思ったのだろう。
それも、彼女には関係ない事だ。
彼らが自分自身で考え行動するしか進む方法はない。
項垂れ顔色も悪い彼らは変われるだろうか。

そう考えているとぽんと肩を叩かれる。
ナミは優しく微笑み「あんたにしては上々な解決できたんじゃない?」と声を掛けられる。
そして仲間達が次々と頭を小突いたり背や肩を叩いていく。
彼女は曖昧に微笑み、そしてテオに視線を向ける。

彼に断りなく、仇であるあの男達に赦す道を与えてしまった。
一味が合流してからはロビンがテオの事を気にして見ていてくれたようで「少年は無事よ。」と土に汚れて擦り傷のある姿ではあるがそこに立っていた。
彼が無事であるという事に心から安堵するも次に不安が押し寄せる。
全てが分かった今、テオはどんな表情をしているのだろうか。
先程までは命を守る為に必死になっていた。
状況が落ち着いた今、彼の表情を確認しようと視線をゆっくりと動かそうとしたその時、一味ではない男の声と走ってくる音がした。


「──テオっ!!」















(ユーリおじさんっ!)
(テオ!一体なにが、け、怪我はないか!?)
(…ユーリさん、)
(シオン…、)




200815執筆



****
主人公はこの敵2人を自分にも置き換えて考えていました。
“白い部屋”から出てこなければ自分も永遠に支配されていただろう、そう思ってしまった。
彼らのした事は許される事ではないけれど、支配から解き放ってあげたかった。
…こんな解決方法でも、ありだと思うんです。っていう独り言。



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