1.ひとごろし

それはとある島に着き、ログが溜まるまでのいつもと同じ島の探索となるはずだった。







「──なんでまた来たんだ!!この…、この、ひとごろし!!!!」

「「!!?」」

「…………。」

「シオン……大丈夫!?」

「な…人殺しって…どういうことだ?」


驚愕の言葉を放たれても、彼女は無表情でそこに立ち、その言葉を発した少年を見ていた。



















───時は少し戻る。

“偉大なる航路(グランドライン)”を旅する“麦わらの一味”はある島に辿り着いた。
今まで普通では信じられぬような島を冒険してきた彼らだがどんな小さな島でも彼らにとっては大冒険である。
今回ログが導いたこの目の前の島もワクワクでいっぱいである。
船を港に着けたはいいものの、船を空っぽにするわけにはいかない。
一味は誰が船番をするかで──揉めていた。


「──だからっ!あんた達が残りなさいよ!」


そう言うのはこの船の裏の権力者である航海士ナミである。
そしてそれに立ち向かっているのは船長ルフィに狙撃手ウソップだ。


「なんでだよ!おれだって行きてェっ!」

「そうだそうだー!」

「だーかーら、いつも真っ先に船から飛び降りていくんだからたまには残りなさいってことよ!」

「なんでだよ!ナミだっていつも降りてんだろ!」

「私みたいに可愛くてか弱い女の子が船番だなんて…襲われたらどうしてくれるつもり?」


ナミの鋭い瞳は暗に「今回はあんた達が残りなさいよ。」と言っているようなものだ。
そんな彼女の主張にウソップは「おれも弱いけどな!!」と何故か胸を張って答える。
一方でルフィはナミの迫力にたじろいでいた。
ナミの睨み付ける顔に先程までの勢いは消え、言葉に詰まる。
そしてナミはダメだと分かった彼は隣でタバコを吸っていたサンジに声をかけた。


「サンジっ!船番してくれ!!今度おれがやるから!」


本当に今度船番を変わってくれるのか甚だ疑問に思うサンジだが(まぁ恐らく次も似たような事を言ってくるのだろう)、彼はさらりと返す。


「悪ィが今回おれは食料の調達に行かにゃならねェ。今晩そしてこの先の食いモンがなくてもいいってならいいが。」

「〜〜〜〜〜っ!!」


食料がない、というのはルフィにとって耐え難いものである。
しかし島には降りたい。
どうしたものかとむーっと頬を膨らませ、葛藤するルフィを見ていたナミはため息をついた。
本当にしょうがない船長である。
こちらの方こそどうしたものかと考えていれば、ナミの隣でシオンが手を上げた。


「私が船番するわ。」


そう名乗り出れば、シオンはルフィとナミに睨まれる。


「ダメだっ!」
「ダメよっ!」

「なんで?」


同時に二人からダメだと詰め寄られ「えええ、」と衝撃を受けるシオン。
助けてくれとばかりにウソップの方に視線を向けるが彼は真顔でただ首を横にふるだけである。
ウソップの目はただ「諦めろ」と言っていた。
シオンはなんでなんだと唸り、再びルフィとナミを見る。
彼らは何故か不機嫌そうにこちらを睨み付けている。
(何もしてないのになんで睨まれるのだろうか。) 

シオンの「何でなのだろうか」という表情を読み取ったらしいナミはビシッと指さしてくる。


「あんたまた船番するとか言って引きこもるつもりね!」


近い距離でそう言うナミに「いや別に、揉めてたから。」と返す。
するとルフィも続いて詰めよってきた。


「おいシオン!お前は島についたら探検するのが決まりだろっ!」


なんて勝手な決まり事ができているのだろうと「そんな決まり初めて聞いたな〜。」 と笑うシオン。
必死に拒否していればガシリと腕を掴まれぐいぐい引っ張られる。


「──さっ、行くわよ!」

「え、今の流れで?私行くなんて一言も…。それに船番どうするの?」


そう尋ねればナミはうふふ、と笑う。


「大丈夫よ!船番はそこで寝てるゾロがやる事になったわ!」

「………。」


ナミの言う方を見てみれば確かにそこには寝こけているゾロの姿が。
(恐らく今までのやり取りをしているうちに眠ってしまったのだろう。)

やる事になった、というよりは寝ているからついでにやらせよう、である。


「さっ、行くわよ。」


強引な彼女にシオンは小さく息をつき、目の前に見えている島を見つめる。


「…私、やっぱ面倒だし船番してるよ。」

「──?だからなに言ってるのよ!ゾロだって敵襲があれば戦うし大丈夫よ。」

「そうだぞシオンっ!!行くぞ〜!」

「行こうシオン!!」

「……、」


すっかりゾロに船番を押し付けた一味はもう町へ向かう気満々である。
何度か留守番すると言ってみたものの、やはり聞く耳は持たないようだ。
(いつも島へ着くと強制的に外に出される事もあるから何となく分かってはいたけれど。)

シオンはもう一度町のある方を見て、そしてルフィ達を見ると困ったように眉を下げ、そしてへらりと笑う。


「──そうね、ならちょっとだけ。」
















島の中心地を目指して歩き、ルフィ達は町の中へ入っていく。
そこには小さいながらも広場があり、噴水がキラキラと水飛沫をあげていた。


「うっひょ〜〜!い〜い匂いがする!!!」

「うんまそ〜〜!」

 
出店から流れ出る匂いにルフィ達は噴水の周りにある出店に夢中になる。
ナミは雑貨の並ぶ出店を覗いていた。
そしてナミから少し離れた所からゆっくり歩いてついて来ていたシオンは一つの視線を感じて歩みを止める。
それとほぼ同時、ゴツリと低い音が聞こえる。
その音に出店を見ていたナミがその音に驚き「何?なんの音?」と声を発し、ルフィも不思議そうにシオンの方を見る。
そして彼女の姿を見た途端、顔を青ざめ目を丸くさせる。
先程までは普通だった筈のシオンの額からは血が流れていたのである。


「シオン!?」

「シオンどうしたんだ!血が出てるぞ!?」

「なに、なにがあったの今、」


そこまで言った所で、ナミはシオンのそばに整地されている場所には不似合いな石を見つける。
ナミは慌ててシオンとその石を見比べた。


「シオンもしかして石が、」

「ふふっ、そうみたい。でも、」

「誰だっ!!シオンに石投げたのは!!!」


広場で騒ぎ始めるルフィにシオンは彼の肩を叩いて落ち着かせる。


「ルフィ、広場でそんな大声出しちゃだめよ。」

「で、でもシオン血が!」


あわてふためく彼にシオンは何にもなかったかのように手で血を拭うとへらりと笑う。


「だーいじょうぶよ。ふふっ、私やっぱり船に戻るわ。」

「え、ちょ、あんた何言って、」


ルフィやナミの言い分など聞こうともせず、シオンはやって来た方へ方向を転換させた。
と、その時。


「──まてよ!!」

「……、」

「なんだあ?」

「…?」


呼び止められた方を見ればシオンやルフィよりも年下であろうの男の子。
少年は回り込んでシオンの行く方へ立ち塞がった。
そんな少年の手には石ころが何個か抱えられている。
それを見てルフィはカッとする。


「お前か!!シオンに石投げたヤツは!!」


怒鳴り声に少年は驚いたようでビクリと体を震わせる。
自分がやられたわけでもないのに怒り心頭であるルフィをシオンはぐいっと引っ張り首を振る。
ルフィと目が合えば、余計なことは言うなというばかりの視線まで送ってくる。
そんな彼女にルフィは引っ張られた襟首にモゾモゾしながら叫ぶ。


「なんでだよ!!シオン離せっ!コイツが石投げたんだぞ!」


そう言ってもシオンは首を振る。


「…いいのよ。」

「なにがだよ!!よくねェ!!」


シオンはふふっ、と微笑む。
困った、表情で。


「私はだーいじょうぶだから、ちょっと落ち着いて。周りの人が驚いてる。」


ルフィはそう言われ周りを見ると騒いでいるこちらにボソボソと何か呟きながら急いで広場から離れようとしているのが見える。
彼はようやく力を抜き、フンっと息を吐く。
その様子にナミもほっとし、少年に声をかけた。


「ねぇキミ、どうしたの?その石は…」


そこまでナミが言った時、少年は再び持っている石をシオンに向かって投げた。


「シオン!」


シオンはその石を避けることなく受ける。
それは額にぶつかり、うっすら血が流れる。
少年のその行動に今度こそルフィは少年に詰め寄る。


「──お前っ!!」

「あ、あいつが悪いんだ!!」

「なんだと!?」

「──っ、」


ルフィの勢いに少年は身を引く。
しかし彼は今にも泣き出しそうな顔をしながらも ぷるぷると体を震わせシオンを睨み付ける。


「なんでまた来たんだ!!この…、」


その少年の言葉は、ルフィやナミを驚愕させるものだった。













「───この、ひとごろし!!!!」

「「!!?」」


彼はそう言い放つと、一目散に広場から立ち去った。
しばらくするとざわざわと人々の喧騒が戻ってくる。
シオンは眉を下げ、彼の後ろ姿を静かに見送っていた。

















それはかつて彼女が、












(…………。)
(シオン…?)
(な、どういうことだ?)



131130執筆



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