14.どうして


敵を伸したはずであったのに気がつけば状況は一転していた。
シオンは倒れ、背中を踏みつけられ身動きが取れなかった。
急転した状況に何が起きたのか顔を上げる。
それと同時にこちらを見下ろす男2人を見て、彼女は目を見開く事となった。


「あ、んた達は、」

「覚えているとは光栄だ。」

「久しぶりだな…2年ぶりか。その間におれ達は変わったわけだ。捕獲成功、…やっと島へ戻れる。」


そう笑う彼らにシオンの心臓はどくどくと胸打っていた。
こちらの動揺に男は笑みを抑える事ができないようであった。


「油断していたんだろう?もうおれらがいないだろう──と。くくっ、お前は2年前と何も変わってないな。油断が、人の命を落とすという事をまるで理解していない。」

「っ、」

「シオンっ、」


こちらを呼ぶ震えた声にハッとする。
再び拘束されてしまったテオがこちらを不安げに見ている。
そうだ、ここで動揺している訳にはいかないんだ。
踏まれたままである状態から抜け出そうと腕に力を入れる。
すると男の押さえつけは強くなった。


「──おっと、動くなよ。せっかくの人質が無駄になっちまうじゃないか。」


テオに突きつけられたサーベルをみてシオンは動きを止める。
顔を青ざめ震えるテオに彼女は顔を上げてテオに視線を送る。


「だーいじょうぶ。」

「大丈夫じゃなかったから、2年前“ああ”なったんだろ?」


そう言って男は2年前まで宿があった場所へ視線を送る。
シオンは苦い表情で男を見る。
そんな表情が愉快でたまらない男はニヤニヤ笑みを浮かべてテオに視線を送る。
その視線を受けて震えるテオに男は笑う。


「なァ、このガキはよ…あのジジィの孫なんだろ?なぁ、教えてやろうか。」

「──っ!やめ、」

「はいはい、黙ってろよ。」


ガン!と側頭部を蹴りつけられ、視界がぐるぐる回る。
頭を抑え平衡感覚を取り戻そうとしている間にも男は話を続けていた。


「あの日の本当の事をおれが教えてやるよ。」

「っ、」

「本当の、事。」

「ガキでももう分かってんだろ?お前が憎んで憎んで止まなかったこの女はおめェのジジィを殺したわけじゃない。あのジジィを殺したのは、おれらだよ!」

「…!!?」

「甘い女だなァ、このガキの為に…捕獲されとちまうなんてなァ。」

「う、るさい、黙って。」


怒りで震えるシオンに男は軽く笑うだけだ。


「おい、口のききかたには気をつけてくれよ。間違えて手元が…狂っちゃうだろ?」

「…んで、」

「?」


テオから発せられた言葉に男は彼を見下ろす。
テオは唇を強く噛む。


「──なんでじいちゃんがお前らに殺されないといけないんだ…!!」

「ああ…そうか。知りたいか少年。」


それを聞いていた男はニタリと笑顔を作る。
後ろでシオンがやめろ、と低い声で言うも、それすら面白いとばかりに嫌な笑みを浮かべた。


「──あの日、あのジジィが邪魔したからだ。」

「…じゃ、ま?」

「この女を“捕獲”するのを邪魔しやがったんだ。おれ達はずっとこいつを追っていてな…。まァそもそもあのジジィが…お前がこの女をあの日拾わなければ“ああ”はならなかっただろうよ。」

「そ、んな…、」


ぽたりとテオの目から涙が溢れる。


「ジジィはジジィらしくじっとしてコイツを差し出してりゃあ命だけはあったかもしれねェのになァ。」

「お、おいクソガキ、お前のジジィの所為でおれらは2年もこの島にいる羽目になったんだ。お前にも責任を取ってもらおう…“実験道具”としてな。」


はは、と笑う男は強気な言葉を発しながら顔色がどこか悪い。
テオは涙を流しながら顔を青ざめる。
その様子を見てシオンは体を動かそうと身じろぎする。
しかしすぐに抑え込まれ顔を地面に着ける事となった。


「抵抗するな。“不滅”…あのガキの命が惜しくなきゃなァ。」

「っ、」


刃物をゆらゆら揺らして見せつけてくる男に口を閉じる。
おかしい、いくらなんでも力がありすぎである。
確か当時シオンはこの男達を一瞬で返り討ちにした。
不利な体制で上から押さえ込まれているとはいえ、2年の時が経ってはいるがこんなにも力の差が出るというのだろうか。
静かに舌打ちをして悪態をつくも、視界に映ったテオの涙に濡れた顔を見て一気に気持ちがそちら側に持っていかれた。

ああ、こんな伝え方だけはしたくなかった。






あの日、あの夜──。









「シオンー!」

「テオ、どうしたの?」


リビングでニュースクーを読んでいたシオンはテオに声をかけられ顔を上げる。
テオはにこにこしながら口を開いた。


「おれ!ちょっと買い物行ってくるから!」

「買い物?それなら私も一緒に、」

「い、いいから!シオンは旅立ちの前なんだからゆっくりしてろよ!」

「え?」

「おれ!うまいもん買ってくるから!パーティーできそうなくらい!」


テオのその言葉でシオンは昨日の夜にジャンと話した事を思い出す。
そしてテオの背後でジャンがこちらに焦った様子で視線を寄越している事にも気づく。
そうだ、内緒だったんだ。

──にしても分かりやすい。
昨日ジャンからパーティーの話を聞いていなかったとしても今のテオの様子を見れば分かってしまいそうだ。
シオンはぱちんと手を叩くとそうだった、と口を開く。


「テオと買い物に行きたいけれど私剣の手入れをしておかないといけないんだった。ごめんねテオ。」

「ううん!いいんだ!シオンはちゃんと旅立ちの準備してて。じゃあじいちゃんおれ行ってくる!」


こちらをアワアワ見ていたジャンはテオが自分の方を見た事にハッとし「んん!」と咳払いした。


「そ、そうか!気をつけて行くんだぞ。買い物は頼んだ!」

「うん!行ってきます!」


ニカっと笑って出て行くテオを手を振って見送る。
そしてパタンと閉まったドアを確認してから2人そろってハーっ!と息を吐いた。


「ごめんジャンさん、私ウッカリしてた…。」

「い、いや、おれもウッカリしてた。我が孫ながらアホだなテオは。」


こっちの様子にはまるで気付いていない。
助かったがあの鈍感な孫は大丈夫なのだろうかとジャンは少し心配に思う。
それはさておき、とジャンはシオンを見る。


「これからおれはパーティーの料理を作る!シオンは何も知らない訳だからさっき言ってたように部屋で剣の手入れでも荷物のチェックでもしておきなさい!いいか、おれがパーティーの事をしゃべったのはナイショなんだからな!おれがテオに怒られる!」


長袖の服をさっと捲り気合い充分なジャンはシオンにパーティーの事を知らせてしまった事にドキドキしているようだった。
(彼が自ら言った事であるが。)

シオンはそんな様子のジャンにくすくすと笑いながら「わかった。」と言って2階へと上がっていった。









「──ふぅ、いいかな。」


剣を片手に持ち刀身を丁寧に見る。
この島に降り立ってからも手入れを欠かした事はなかったが明日には旅立つのだ。
念入りに確認しなければ。
うん、と頷き鞘に戻し手荷物も確認する。
明日には問題なく出航できる。

下に降りてジャンの様子でも見に行ってもよいだろうか。
少し前から料理のいい匂いが流れてきている。
テオに見つからなきゃいいんだ。
何だかソワソワするこの感覚にシオンはつい微笑む。
くすくす笑いながら階段を降りている途中で久々に感じる殺気にハッとする。


「──!」


階段を飛ばして降りる最中、コンコンとドアを叩く音を耳にする。
そしてドアノブに手を伸ばしているジャンの姿を視界に捉えサッと血の気が引いた。


「──ジャンさん開けちゃダメ!!!」

「ん?」


シオンが叫ぶのと同時にドアは少しの隙間が開く。
そしてその瞬間、


「ぐあっ!!」

「──ジャンさん!!!」


少しだけ開かれたドアは外側からの衝撃で大きく開き、ドアの側にいたジャンは飛ばされ壁に激突する。
シオンは残り数段だった階段から飛び降り、そのままジャンの側に行く。


「ジャンさん、ジャンさん!」

「う…、」


頭を強く打ったようで意識が混濁しているようだが大丈夫だ。
シオンはほっと息を吐く。
そしてドアを壊して入ってきた人物を見る。


「お邪魔します。」

「ここに、“不滅のシオン”がいると聞いてな。」

「捕獲して帰らさせてもらう。」

「っ、」


サーベルを抜いた男の内の1人が「そうだ、」と玄関に置いてあったランプを手に取ったかと思うと絨毯の上に投げ捨てる。


「!!何を、」

「ほら、お前のいた痕跡は消しておかねェと。」

「存在諸共…な。」

「!!」


絨毯に落ちたランプから火が広がり辺りを炎で包み始めた。
シオンはジャンの側で彼を支えながらギチリと唇を噛んだ。











(なんで、)
(どうして、)
(わたしの場所を奪って行くの。)





191025執筆



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