12.たのむ


「シオンが…、」

「ジャンさんを殺した…?」


ごくりと息を呑む一味にユーリは静かに頷く。


「あの時の事は忘れられない。パーティーの買い出しに来ていたテオを私は宿まで送っていた。そして燃えている宿に…動揺した。そして彼女は燃える宿の中から出てきた。ジャンを抱えてね。」

「もしかして、」

「彼女は言ったんだ…、“私が殺した”、と。」

「──!」












「…な、んだこれは…、」

「じ…じいちゃん!!」


燃える宿に飛び込もうとするテオを止める。


「ダメだ!危ないから!」

「で、でもっ!…じいちゃんと、シオンもさっきまでウチに…!」


ユーリは燃える宿を見てごくりと息をのむ。
しかし、燃え盛る炎は消えそうな雰囲気もなく、どうにもならない状況であった。
もしかしたらシオンも、ジャンも逃げているか──外出中かもしれない。
今のこの情報がまるでない中突発的に炎の中に飛び込むのは得策ではない。
ひとまず町の人達を呼び、消化活動をしなければ。
そう考え、口を開こうとしたその時──テオが「あ!」と燃える宿を見て口を開く。


「──シオンっ!」

「ジャン!!」


宿から出てきたのはシオンと、そして彼女に抱えられたジャン。
2人はシオンに駆け寄る。


「大丈夫か!?」

「じいちゃん!!」


2人を見てシオンは宿からの火が届かない所まで来たのを確認するような素振りを見せ抱えていたジャンをそっと地面に降ろす。
テオがジャンに駆け寄ろうとするのを見ながら、ユーリはハッとしてテオの手をつかんで止まらせる。
急いでジャンに駆け寄りたいのに止められてしまい、何!?と睨みつける。
彼は「待て、」と一言発する。重症であろうジャンの容体をすぐさま確認したいのに違いないがそれは止まった。
シオンの手に、剣があったからである。


「…シオン、何が、あった?」


その言葉を受け、彼女はユーリから受ける視線が自分の手元の剣にある事に気づく。
そして、その剣からは何か赤い物が光っているのを見て「ああ…、」と呟くと剣を一振りしその赤い雫を払うと静かに鞘へ戻す。
その一連の流れをユーリは静かに見つめる。
自然とテオの手を強く握り、脂汗が流れる。
彼女にはこちらの警戒心は伝わっているだろう。
だが、特に表情を変える事もなく彼女は炎をバックに…静かに言った。


「ジャンさんは…私が殺した。」

「!!!」

「…え、」


彼女の言葉にユーリは目を見開き、テオは動揺する。
少年はゆら、と一歩踏み出す。


「う、そだろ。シオン、シオンがそんな事っ、そんな事するわけねェだろっ!あんなに…あんなに楽しかったのに!」

「テオ!!だめだ!近づくな!!!」


シオンに詰め寄ろうとするテオを抱え込み腕の中に留める。
彼はバタバタ暴れながら離せと訴える。
それを抑え込みながらユーリはシオンへ言葉を飛ばす。


「シオン!本当は違うんだろう!?事故なんじゃないのか…?ジャンは、ジャンはシオンの事を心配していた!君がそんな事をするとは思えない!」


距離を取りながら言う事ではない、そう思いながら言うも彼女の表情は変わらなかった。


「…私が、ジャンさんを殺した。──テオ、私を恨んで。」

「──!」


否定しない彼女の言葉にテオはぺたりと座り込む。
そして静かに涙が流れた。
それを見ながら彼女はこちらに背を向ける。
離れようとする彼女を見ながら、もうこのままこの島を出てしまうだろうと察する。
しかしそんな彼女を止めようとは思わない。
──ジャンは未だ倒れたままだ。
ユーリが油断していたその隙にテオはジャンの方へ駆け寄る。


「じいちゃんっ!」

「──テオっ!」


いくら背を向けているとはいえまだ彼女は近くにいる。
慌てて追おうとするも足がもたつく。
その間に彼はジャンに駆け寄る。


「じいちゃん、じいちゃん…っ!」


動かぬジャンにテオは涙しながら歩き去ろうとするシオンの後ろ姿に叫ぶ。


「もう来るな!この島に!もう来るな!!!ひとごろしっ!!!」


うわぁぁ…!泣き声が辺りに響く。
少し立ち止まった彼女はあっという間に闇に紛れるように姿を消した。


「…お、…テ、オ、」

「っ、じいちゃん!」


側で泣くテオの声でジャンは力の入らない手を彼に伸ばす。
テオはその手を握る。
その姿を見てユーリは慌てて駆け寄る。


「大丈夫か!ジャン!」

「…ユー…リ、」

「なんだ!」

「テオ、テオを…、テオをたの、む…、」

「そんなのは当たり前だ!でも大丈夫だ!すぐ医者を呼ぶから!」


ジャンはその言葉を聞いて安心したように微笑む。
そしてその手はぱたりと落ちた。


「うわぁぁぁぁあん!!」

「ジャン…っ!!」


炎が宿を焼き尽くす間、ユーリも、テオも動かなくなったジャンを見つめ動けなかった。











「…そしてその後私はテオを引き取り、あの日以来シオンの姿を見る事はなかった、が…。」

「昨日シオンがいるのを見つけた。大体の経緯は分かったわ。」


ナミが彼の言葉を続けるとユーリは頷いた。
チョッパーは眉を下げ口を開く。


「それでシオンが“ひとごろし”って言われたのか…、」

「だから、もうあの子に構わないでほしいんだ。頼むから、あの子からもう笑顔を奪わないでくれ…!」


涙ながらに懇願する彼に一味は言葉が出ない。
シオンが人殺しなど、それも世話になり、恐らく心を開いていた相手を殺すなど信じられない。
しかし、どうにも言葉が出ない。
あの子が人殺しなんてするわけないと言葉にする事ができない。
彼の言う通り、ログが溜まり次第すぐにこの島を出た方がいいのかもしれない。
そんな風に考える。
ふと今まで何も口を開かなかったルフィが腕を組んだまま顔を上げる。


「──わかった!」

「…ルフィ、」

「すまない…必要な物があれば私も用意する。」


安心した様子のユーリ。
そんな彼を見ながらルフィはうんうんと頷く。


「じゃあテオってやつの場所を教えてくれ!!」

「なんでそうなったんだ!?」


突如として意味合いの変わった言葉となった事にユーリはえええ!と驚きの様子を見せる。


「おれが話を聞いてくる!シオンの代わりにおれが聞いてくるよ。ししし!それならいーだろ。」


満面の笑みで言う彼にユーリは驚きを隠せない。
一方で一味はいつもの姿にやれやれ、と呆れた様子を見せる。
そんな一味の様子に戸惑いながらユーリは反論する。


「よ、よくないだろ!君は何を聞いていたんだ!」

「聞いてたよ。シオンが燃える家から出てきてジャンってやつが死んじまったんだろ。」

「だから、もう関わらないでくれって!」

「んー…でもシオンが本当に人殺ししたかどうか分かんねェだろ。それにやっぱりシオンは、」










「ルフィ達と出会うまで私、悪い事もしてきたわ。だから今回のはそのツケが回ってきただけ。ルフィは何もしないで。」










「──シオンは人殺しなんてする奴じゃねェんだ。」

「──!!!」


ルフィの強い言葉に一味は笑みをこぼす。


「…そうね、あの子に人殺しなんてできるわけないわ!」とナミ。

「シオンからちゃんと話聞いてねェもんな!」とウソップ。

「そうね、白黒はっきりさせた方がいいわ。」とロビン。

「本当にしょうがねェ奴だな。」とゾロ。

「おれは信じてるぞ!」とチョッパー。


そんな彼らの様子を見てユーリは息をのむ。
仲間を信じるという意思を感じ、彼らの視線を受ける。
仲間を信じるという彼らの目はまっすぐだ。
ユーリはゆっくり頷く。


「…君たちを、私も信じよう。」

「!じゃあテオって奴の場所教えてくれよ!」

「ああ、テオは──、」


そう口を開いたその時、うぉぉぉおおお!!と叫び声が聞こえて来て全員がそちらに視線を送る。
それは一度彼らを通り過ぎ──そして、戻ってきた。


「ナミさんんんん!!ロビンちゃんんん!それと野郎ども!やっと見つけた!」

「サンジくん!?」驚いた様子のナミ。

「何やってんだお前。」とゾロ。


そう、船番をしていたはずのサンジが息を切らせてやって来たのだ。
一体どうしたというのだろうかと一味が視線を送るとサンジは急においおいと泣き出した。


「シオンちゃんが、シオンちゃんがいねェんだ…、」

「え!?」

「なんでだよ、お前と船番だっただろ。」

「ぎがづいだら書き置ぎが…、」


しくしくしながら紙を出すサンジからそれを受け取り、ナミはため息を吐く。


「あの子も島に降りてる。もう!大人しく船番するって言って信用するんじゃなかった!」

「なんて書いてんだ?」


ウソップが紙を覗き込む。

“ちょっと気分転換行ってきます。”


「あいつ…こっちの気も知らねェで…。つーかもうバレてんだからな!あのアホめ!」

「きっとのんびりさんも少年の所にいるわね。」


ロビンの言葉にゾロも頷く。


「ああ、直接そいつと話をしなくともそのガキの様子は見に行くはずだ。」


そして一味はルフィに視線を向ける。
ルフィはしっかりと頷き口を開く。


「よし、おれ達も行くぞ。おっさん、場所を教えてくれ!」


彼らの熱い視線を受けユーリは口を開いた。
















「…いた、テオ。」


シオンはかつて宿のあった場所から少し離れた位置からそこを見ていた。









あなたに会いに。









(声などもうかけれはしないけれど、)
(顔が見れてよかった。)



190901執筆




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