10.何があったのか




「──んん?」

「ユーリどうした変な顔をしよって。」


ユーリが見慣れぬ少女を見たのはあの嵐の翌日だった。
噴水広場にくつろぎに来ると、ジャン、孫のテオ、そして──テオより5つは年上であろう少女の姿があった。
思わず首を傾げたわけであるが、ジャンは彼のそんな姿にはははと笑いをもらす。
視線で誰かと問うと彼はにんまりと微笑む。


「ウチの客だ!昨日困っていてな、声をかけたんだ!ログが溜まるまでウチに泊まってくれるようだ。」

「へー、」

「興味ないんかいっ!」


それなら聞くな!とテンション高く言うジャンにああ、いや…と苦笑いする。


「商船でも来ているのか?珍しくもうかるじゃないか。」

「金にがめつい!そんな事知ってどーすんだ!」

「どーもせんわ!商船でも来てるんなら町が盛り上がると思ってな!」


そう言えばジャンは何故か言葉をごにょごにょと濁す。
それに首を傾げると少し声のトーンを落とし口を開く。


「…あの子はシオンというんだがな、どうやら一人で旅をしているらしい。」

「──は?いやいやいやそんな事ないだろう。いくらなんでもこの“偉大なる航路(グランドライン)”をあんな子どもが一人で旅なんて!」


冗談言うな、と笑い飛ばしてみるも彼の表情は変わらなかった。
笑っていたのも止まり、「…本当に、か?」と訊ねる。


「ああ、彼女の親らしき人も、勿論ほかの人の存在も感じられなかった。恐らく本当に…。」


その事実に息をのむ。
この大海賊時代、家族を失うなど今はよくある話。
しかし、まだまだ大人の庇護下にあるはずの子どもが一人でこの海を旅しているだなんて。
呆然としているとジャンは「だからな、」と口を開く。


「あの子がこの島にいる間はウチを家で、おれとテオを家族だと思ってもらえるといいと思ったんだ。この島のログは長くはないが…あの子が心落ち着くまで過ごしてくれたらと。」


どう思う?と尋ねてくる友人にユーリはぽかんとした後笑い出す。


「どう思うも何も、そうしてやりたいた思ったならそうしてやるべきだ!もう決めてるんだろ!本当お人よしだなジャンは!」

「わはは、お前に言われたくはないわ!」








「…ジャンは本当に気のいい奴でな。シオンの事もあっという間に受け入れて、そしてテオもすっかり彼女に懐いていた。」


懐かしむように話を続けるユーリに一味は疑問しか感じる事はない。
そんなに友好を築いていたのに、テオも懐いていたらしいというのに今現在の姿はまるで違うではないか。
昨日の様子では、久々の再会であっただろうに石を投げ、“人殺し”呼ばわりである。
その疑問を感じ取ったらしいユーリは視線を落とす。
話を静かに聞いていたロビンは口を開く。


「そのテオっていう少年…、彼はのんびりさんの事を“人殺し”と言っていたわよね?」


それにナミが頷く。


「今の話を聞いていた流れだとテオの身内にジャンさんという人がいるようだけれど…その人は今どこに?」

「な…、ロビンなに聞いてんだよ。」

「そ、そうよ!まさか…、」

「……。」


ロビンの質問に慌てるウソップとナミ。
ルフィ、ゾロはユーリの話を静かに待っている。
彼は、俯いていた顔をゆっくり上げ、そして口を開いた。


「奴は…、ジャンは死んだよ。2年前にね。」

「──!!!」

「え…2年、前。」

「そうだ、2年前だ。」


まっすぐに一味を見るユーリに、ナミ、ウソップ、チョッパーは息をのむ。
2年前、一味がシオンに出会う前。
彼女が一人で旅をしていた頃。
そして、彼女がここへ来たというのも2年前。
黙り込んでしまった3人を視界に入れながら、ゾロはシオンと共に向かった花畑の後での事をふと思い出す。










「違うよ、ここでは死んでない。…その人のお墓の場所は、私は知らないから。だから町が見えるこの場所から祈って、謝ってる。」













「……それで?シオンがそのジャンって奴を殺したのか?」


歯に衣着せぬ発言にナミ、ウソップ、チョッパーはギョッとする。


「ゾ、ゾロ!」

「おめェは聞き方ってもんがあるだろうが!」

「いつまでまどろっこしい事してんだよ。おれ達はシオンがどうして“人殺し”と言われたのかを調べに来たんだろうが。おい、ユーリつったな…とっとと教えろよ。」

「ちょっとゾロ!あんたって奴は礼儀ってもんがなってないのよ!」

「今は話聞きに来たんだろ、うるせェぞナミ。」


好き放題言いまくるゾロにナミはムッとしながら黙って話を聞いているルフィに言葉を投げる。


「ちょっとルフィ!このアホに何とか言ってやりなさいよっ!」


ナミがゾロを指差しながら言うも、ルフィの視線はゾロでもナミにも向かない。
彼が一点見つめるのはユーリだけであった。
まっすぐな眼差しでルフィは彼を見る。


「…、おっさん!教えてくれよ!!話の続き!!」


その強き眼差しにユーリはごくりと息をのんだ。










この平穏なこの島で何があったのか











(君は…君は、シオンの事を信じているんだね。)
(あたり前だろ!!シオンはおれの仲間なんだ!!)





190815執筆




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