ひなのはぼんやり座りながら休み時間を過ごしていた。
そして大きな欠伸をもらす。
昨日は夜まで花道くんと秘密の特訓をし、まだ練習しようとごねる花道くんを説得たり、説得できたと思えば締め殺されそうになったりと結局は帰る時間は遅くなってしまった。
となれば睡眠時間も若干いつもよりは少ないわけで。
何度目かの欠伸をもらしながら休み時間をぼーっと座って過ごしていた。
近頃の休み時間といえば、三井を探したり迷子になったり、花道くん達と戯れたりと教室には(自分にしては珍しく)いなかった。
たまにはぼんやりしてるのもいいだろう。
(眠いし。)
いやー、こんなにゆっくりできると幸せだなー。
そんなことを考えていると突然頭に衝撃が走る。
「──いたっ!?」
「おいっつってんだろ!」
「ちょ、何よ!」
頭を押さえて振り返ればそこには三井の姿。
どうやら私を殴ったのは三井のようだ。
クラス違うくせに何しにきたんだコイツは。
「さっきから話しかけてんのに何ボーッとしてんだよあほひなの!」
「はぁ!?そんなこと言われる筋合いないんですけど!」
「英語の教科書かせ。」
「かしてください。でしょ!」
三井の言葉に一つ一つイライラしながらも、ちゃんと勉強を始めたらしい三井の姿に安堵する。
三井はちゃんと戻ってきてる。
ふふ、と笑いをもらしながらも教科書を取り出す。
それを三井に渡そうと視線を上げれば怪訝な表情で見られる。
「なに。」
「なに笑ってんだよ、気持ちわりーな。」
その一言に怒りがピークに達する。ひなのはがたんと立ち上がると三井を睨み付ける。
「気持ち悪いってなによ気持ち悪いって!」
「気持ち悪いもんを気持ち悪いっつって何が悪いんだよ!」
「あーもう腹立つ!そんなこと言うなら教科書かしてやんないわよ!赤木くんにかりてくれば!?そこにいるよ!」
「な…!」
赤木くん。そのワードに三井は固まる。
その様子にふふふ、と弱味を握った気分になる。
やはり三井にとって赤木くん、というワードは言い合いの場ではこちらにとって有利になるポイントだ。
特に勉強面ではこれからはちゃんと勉強もしろと赤木くんからお達しがあったようで、そんなことを言われているのに赤木くんに教科書を借りるだなんてことはできないみたいだ。
(勉強する気がないだろう!と怒鳴られるとか。)
どもりながらチラチラと赤木くんのいる方を気にする三井に満足げな気持ちになる。
三井は悔しそうな表情をしながらも小さな声で言った。
「………かしてください。」
「え?なんでしょうか三井くん。」
「かしてください。」
そんな嫌そうな顔をしてなに言っているんだ。
(言わせといて何だが。)
そんなに赤木くんに怒られたくないのだろうか。
ひなのは内心笑いながら教科書を手渡す。
「はい。ジュース一本で手を打ちましょう。」
「くっ…、」
「え?」
悔しそうな様子に笑いがこみあげてくるもそれをぐっと我慢する。
そして教科書を受けとるとそそくさと三井は教室から出ていった。
なんだか満足感を得てほくほくした気持ちになっていると友人たちがやって来る。
「三井くんかわいそー。」
「えっ、何が。」
「だって一生懸命勉強しようとしてるのにひなのいじめちゃってさー。」
「またグレちゃうわよ。」
「いやいやまさか〜!」
笑いながら返せば、友人たちは視線を互いに合わせてフッと笑う。
いやいやそれの方がなんか腹立ちますけど。
なんとも言えず二人のやり取りを見ていれば友人はでも、と口を開く。
「最初にうちの教室来たときはしんとしたよね。」
「あー確かに。でももうあんなことないしね〜!むしろ私ら的には三井くんの人格がよくわかったわ。」
「そうそう。それで安心したよね。」
そう言う二人にその時のことを思い出す。
そうそれは三井が部に復帰し、まだそれが周りに周知されていない頃。
「──おいひなの。」
三井が教室に入ってくると周りがざわりと騒ぎ、同時にヒソヒソ声。
視線はひなのと三井に集まった。
「あれ、どうしたの。」
「………あー…いや、…………なんでもねえ。」
「──は?」
何か用事があっただろうが、すぐに踵を返す三井に首を傾げる。
そして少し離れた席にいる木暮くんが眉を下げて三井の出ていったドアを見ていた。
首を傾げたままでいると友人たちがやって来る。
「びっ、くりしたー!!」
「だね…。」
「え?何が。」
彼女達のセリフにまた首を傾げると彼女達は逆にポカンとこちらをみる。
「何がって、三井くん、髪の毛切ったってひなのに聞いてはいたけどちゃんと見たのは今日が初めてだったから。」
「うん?」
「いや、だからさー不良だった三井くんしか知らないからみんな驚いたんだと思う。それにひなのと親しい雰囲気だったから余計に。」
「誰だって不良は怖いもんでしょ。不良やめたのだってほとんどの人がまだ知らないんじゃない?」
「ああ…そりゃまぁ、」
まだ三井が不良やめてからそんな時が経ってはいないのだから周知はされていないだろう。
「今三井くんが来た瞬間さ、みんながざわついてたんだよ。不良の三井が来たってね。」
「何の用かと思ったらひなのだもん。ひなのと三井くんに接点があるなんてみんな知らないから珍しいものを見る目で見てたのよ。」
「…ふんふん。」
「だから、気を使って出ていったんじゃない?三井くん。」
「……え、」
その言葉に目を丸くさせる。
「今ひなのも珍しい目で見られてたんだもん。悪いな、って思ったんでしょ。」
「仲間だと思われたらいけないってね。」
「そんな、でも私、」
「私たちはわかってるけどね、でも周りは知らないんだもの。」
友人達の言葉にショックを受ける。
そうか、まだ三井は“不良”という括りの中にあるんだ。
そしてそれに私も巻き込まないようにって出ていったのか。
不良をやめたというのにまだ苦しまないといけないのか。
…そんなのはダメだ。
ひなのは立ち上がるとまだヒソヒソ話をしているクラスメイトを見る。
「ひなの?」
「──みんな聞いて!」
そう言えばクラスメイトはこちらを見る。
「三井は、悪いヤツじゃないよ。…でもすぐには分かってもらえないとは思う。だって不良だったのは本当だし。でもちょっと寄り道してただけで、もう戻ってきた。見たでしょ!髪の毛も切って、不良もやめたんだよ。これからバスケ部の要になるんだ!ね、赤木くん!木暮くん!」
突然話をふられてハッとした様子の木暮くんは立ち上がって頷いた。
「あ、ああ!三井はバスケ部に帰ってきた!だからもう昔とは違う!絶対湘北バスケ部の力になってくれる!」
「…ああ。その通りだ。」
そう言ってくれた二人に頷き、またクラスメイトを見る。
「そうゆうことだからちゃんと見てて!私、三井の親友なんだから悪くいう人は私に言いにきて!納得するまで話するよ!じゃあそうゆうことでよろしく!」
そう言い捨てるとひなのは三井の後を追いに外に飛び出したのだった。
だって三井の事信じてるもの
(…………ぷはっ!!もう何今の演説!)
(あはは!!ほんとひなの笑えるなー。みんな、そうゆうことだから。)
(…まあ春川がそう言うならいいヤツなんだろーな。)
(ひなのの友達なのかー、ビビっちゃって悪いことしちゃったなー。)
(三井くんバスケ部なのか。)
(ああ、凄いプレイヤーなんだ三井は!な、赤木。)
(…まあな。)
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理解あるクラスメイト。
そして信頼されている主人公です。
+友人と赤木くん木暮くんのナイスフォロー。
141201執筆