ゲラゲラ笑う桜木軍団を背後に連れ、そして自分の背中には花道くんを背負うように引きずり歩いていたひなの。
バスケ部員の誰もがこの状況を見捨て、キャプテンである赤木くんですらお守りを頼むと先に行ってしまったという謎な事態であります。
もうすぐ体育館だけどそろそろ自分にも限界(体力とか体力とか体力)がある。
ていうかまだ私退院したて(数日は経っているけどもまだ包帯巻いてるし。)なんだよ。
もうちょっと気を使ってくれたっていいでしょうに。
そう思っていれば洋平くんが面白そうにこちらを見ているのに気づく。
何なのよ、と視線を送れば彼は微笑をもらす。
「いや、退院したてっちゃしたてだけどケガしたその何分か後に大声で叫びまくってたひなのさんならよっぽど大丈夫だろうなと思ってよ。」
「…………。」
まさに今自分の心の中で考えていたことに対しての答えを出してくるとは。
さすが洋平くんだ。
(すごいとは思うけどその回答には若干納得いかない。大丈夫だろうな、って何の根拠なのよ。)
不満そうな表情が分かったのだろうか。
彼はまた面白そうに笑い、そしてただ後をついてくる。
(チュウくんや雄二くん、望くんに至ってはこちらの様子を見てただひたすら笑うのみだ。)
ここは気合いである。
あと少しで体育館に到着、そして部活開始時間には間に合うだろう(花道くんは着替えてはいないけれどそれはもう知らない。部室まで行ける体力はさすがにない。)と力を込める。
よし、体育館の入り口が見えてきた。
ズルズルと歩いていき、そしてようやくドアに手が届く所まで到着する。
ドアに手を伸ばすと桜木軍団は拍手喝采だ。
「おー。ひなのさん凄いな。」
「気合いだな。気合い。」
「さすがひなのさん、まだ部活始まってなさそーだぜ。」
「ひなの先輩素敵だぜ。」
「ふふ、私のことを甘くみちゃいけないのよ…!」
ニヤリと笑い、ガラ、とドアを開く。
よし、部活には間に合った。
「どんなもんよ。」と笑いよいしょと段を上がろうとしたその時、
「どわ、」
「ハッ!!ハルコさんっ!」
ドアのすぐ側にいた晴子ちゃんの存在に気づいた花道くんは先程までのどんよりとは売ってかわって俊敏に彼女の元へと飛んで行った。
(本当に文字通り飛んで行った、という表現が正しいと思う。)
飛んで行った、それは別にいいんだけれど重たい花道くんを背負うように歩いてきたひなのは急に重みが消えたことによってバランスを崩すことになる。
丁度段を上がろうとしていたせいで段を踏み外してしまった。
「っ、!!………………あれ?」
絶対に転ぶ──そう思ったのは一瞬で、目を閉じるが衝撃が来なかったことに疑問を感じて目を開けば上からため息が。
「ひなのさんは…本当に危なっかしいな。」
「あれ、洋平くん。」
どうやら側にいた洋平くんが転びかけた私を支えてくれたらしい。
片手で支えてくれていることには驚きだがそこはさすが洋平くんだ。
ありがとう、とお礼を言って息を吐く。
あのまま変にバランス崩して転んだらまた頭打つとこだった。
本当洋平くんには感謝だ。
「いやー、本当ありがとう。また頭打ったらさすがにヤバいもんね。」
「笑い事じゃねーと思うけどな。本当ひなのさん注意力足りねーよ。」
「あははは。でも今のは私だけのせいじゃないと思うんだけど。」
「いや、それは関係ないから。」
「ええー。」
なんだか理不尽さを感じるが、助けてくれた洋平くんには感謝しておこう。
これ以上頭打ってバカになりたくないし。
花道くんがまた責任感じてしょんぼりしちゃうかもだし。
(今の出来事に花道くんは気づいておらず、晴子ちゃんと楽しそうに話をしているが。)
洋平くんの手をかりて体勢を立て直す。
「ありがとう、洋平くん。」
そうお礼を言えば洋平くんはにこりと微笑んだ。
その素敵笑顔にひなのは言った。
「だからその顔はしちゃだめだってば!!肉食女子にやられるよ!!」
「…だから意味わかんねーって。」
「そんなことない!」
ほんと素敵笑顔なんだから!
(そもそも素敵笑顔ってなんだよ。)
(えええ?えーと、なんていうか…うーん…。)
(ひなのさんも分かってないのかよ。)
(うーん…うーん…そういう感じだよ!!)
(……ほんとひなのさんて面白いな。)
141012執筆