それは、いつもと同じとある昼休みの事。

ひなのはある人物を探していた。

いつもならばこの辺りにいるはずなのだけど。

購買や自販機の辺りまで行くと、そこに探していた人物を見つけニッと笑顔になる。

そして笑顔のままその人物に声をかけようとする。

と、その時聞こえてきたのは騒がしい声だった。


「──あーっっ!!コラてめーそれはオレが今持った!!」

「でも今はオレの手の中だ!!残念だなぁ花道!!おばちゃんこれちょうだい。」

「はいよ。」

「あー!!!」

「ぎゃはははは!!負けだな花道!!」

「くっそー!!高宮覚えてろよ!!」


購買の前でギャーギャー騒ぐ花道くんたち。

ちょっと会話を聞いただけで何があったのか分かってしまった。

それを笑いながら見ていると声をかけようとしていたのに向こうが先に気づいた。


「よぉひなのさん。」


探していた人物──洋平くんに手を振る。


「やっほ、日々楽しそうだね君ら。」

「ははっ、これはほぼ毎日見られる光景だけどな。」

「まじでか。じゃあ花道くん毎日のように負けてるの。」

「ああ、高宮のが食に関しては強いからな。」

「ははは。」


こちらの存在には気づくことなく揉めている花道くんと高宮くん。

そしてそれを見て大笑いしているのが雄二くんとチュウくんだ。

安定のからかい具合にはもうすっかり慣れてしまった。

何しろ彼らのやり取りは本当に面白いのだ。

面白い様子を見ていれば、洋平くんがこちに声をかけてくる。


「ひなのさんも購買に?」


早くしないと売り切れるぜ、と言ってくれる洋平くん。

しかし私の目的は購買ではない。


「いや、違う違う。マイお弁当持ってきてる。」

「へー、ひなのさん弁当なんだな。食堂派かと思ってた。」

「何その食堂派って。私だって自分のお弁当くらいつくってるんだからね。」

「ふーん、ソンケーするなー。」

「棒読みすぎる!」

「ははっ冗談冗談。オレは食堂購買派だからな。弁当なんて高校入ってから食ってねーわ。」


高校入ってからって言うけども君らが高校入ったのってついこの前でしょう。

そんな言葉は飲み込みました。


「洋平くんの冗談は冗談にならないことを覚えた方がいいよ。本気にするから。」

「分かった分かった。先輩怖い顔して見ないでくださいよ。」


彼のからかい口調にも大分慣れました。


「何回も言うけどほんっと私のことばかにしてるよね。」

「何回も言うけどしてねーって。つか買い物に来たんじゃなきゃ何しに来たんだ?」


不思議そうな様子の洋平くんに、まぁ購買にいて買うものがないのは変かもな、と思いながら返す。


「用事があって探してたんだ。」

「何を。」

「洋平くん。」

「へ?」

 

オレ?とまたもや不思議そうな様子の洋平くん。

それもそうだろう、いきなり何だっていうんだって話だ。

そんな彼の様子にひなのはにっこり微笑んだ。


「前にコーヒーおごってくれたお礼、何がいいかなって思って。」

「──ああ、」


一瞬ぽかんとしながらも思い出してくれたようであの時のことか、と呟く彼に頷いた。

コーヒーをおごってもらったのは三井がバスケ部に戻る前の話だった。

ちょっと前まで絶好調で、もうバスケ部に戻ってくるかも…という気持ちでいた時に三井の様子がおかしくて、その上急に姿が見えなくなって焦って落ち込んでいた時だった。

洋平くんが声をかけてくれて、話を聞いてくれて、その上缶コーヒーをおごってくれたんだ。
(私の方が年上のはずなのに洋平くんに話を聞いてもらって落ち着いたなぁ。)

ともかく洋平くんには何かとお世話になりっぱなしなのだ。

色々落ち着いてきた今がお礼をする時だ。

何がいいかなぁ、と考えても私では思いつきもせず。

結果本人に聞くことにしたのだ。

だというのに洋平くんはさらりと返してきた。


「別にいらねーって。」

「え。だってまた何かおごってって。」

「ははっ、あんなんその時のノリだって。別に気にしなくてもいいですよ。」


笑顔で返してくる洋平くんは何だか大人である。

だけど相談に乗ってもらってすっごく気持ちがラクになった身としてはお礼もしないっていうのは選択肢にはないんだけれども。

うーん、うーんと悩んでいると洋平くんはプハッと笑いだす。


「え、」

「ははっ、本当にひなのさんは分かりやすいよな。」

「そ、そうかな。」

「ああ。」

「別にいいって。気にしないでくださいよ。」


そう言って断る洋平くんは本当にいい子だ。

そんな彼を見て何もお礼をしないというのは…うーん、と考えハッとひらめく。


「そうだ!じゃあお弁当作ってくるから今度お昼一緒にしよ!勿論缶コーヒーつきで!」


ナイスアイデアとばかりに瞳を輝かせて言えばぽかんとした様子の洋平くん。

あれ、なんか間違えたかな。

ハッ、彼女でもないのに手作り弁当とか気持ち悪いか!?

そんなことを考えていれば洋平くんはまた笑う。


「ははっ、本当にひなのさんといると飽きねーわ。じゃあそれでお願いします。」


にこりとして言う洋平くんにまたもや素敵笑顔でドキドキする。

何度も忠告してあげてるのにその笑顔はダメだってば!

まぁそのくだりの話は何度もしているので今は飲み込み、了承を得たことに頷く。


「よし、じゃあ今度一緒にごはんね!」

「…ああ、お願いします。あ、でも」
















花道達には黙っててくださいよ。













(え?)
(あいつら絶対ズルいだとかなんとか言ってくるからな。めんどくせーし。)
(な、なるほど。──あ、じゃあみんなの分も作るけど。)
(……それじゃあオレのお礼にならないだろ?)
(あっ、それもそうね。じゃあナイショね!)
(ああ、ナイショで。)
(あー!ひなのさんだー!!おーい!)
(やっほー花道くん!)





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