青葉城西。

そこは烏野高校の敵であると私は思っている。

話に聞くに、練習試合で勝ったが“大王様”という恐ろしい強敵がいるのだとか。

(日向からの情報)

その大王様とやらを調べに私浅香は偵察に来てみました!


「……ここがバレー部の体育館、」


こそこそと下窓から顔を覗かせる。

見えるのは烏野で見る練習風景と同じもの。

しかし困った事に“大王様”がどの人か分からないことに気がついた。


「…うん、ぶっちゃけ練習とか見ても素人の私にはよく分かんないや!いつも大地さんの事しか見てないもんな〜。せめて“大王様”が分かればいいのに。」


ブツブツと一人言を言っていればふと自分にかかる影に気がつき、「ん?」と首を傾げしゃがんだままの体勢から振り返る。

すると視界には誰かの足。

と、いうことはここに誰かいる…のか!?

やばい偵察しに来たことがバレてしまう!

そう思った瞬間顔を上げることができず、冷や汗がブワッと吹き出す。

いやでも大丈夫だ!

他校生だとバレないようにわざわざジャージ姿で来たんだし向こうもこっちの顔知ってる訳じゃないんだし青葉城西の生徒ですって顔しとけばいいはずだよね。

私は大王様を見に来ただけなんだから!悪いことはしてません!


「…ねぇ、君なにしてるのかな?」

「ひいっ!」


突如として上から声をかけられて悲鳴に似た声を発してしまう。

そして今まで足しか見ていなかった人の顔を見ればおおなんとお顔の整った男の人が…!

そしてなんてにこやかな笑顔を!

キラキラ眩しさを感じました。

(や、でも大地さんの笑顔には敵わないけどね!)

脳内会議をしていれば、「ねぇ、聞いてる?君、なにしてるのかな。」ともう一度声をかけられハッとする。

そそそそうだ覗いてるの見つかってしまったんだ。

あれ、なんて言い逃れしようとしてたんだっけ。


か、完全に忘れたな!


私の脳内会議は意味がないものだったと自分のことながら残念なヤツだなと思う。

ていうかこの状況どうしよう。

ていうか誰この人。

この状況をどう回避するべきかと考えていると相手から声をかけられる。


「君、見たことないけどウチの生徒?」


ピンチ!

どうする!?


逃げる。

生徒のフリをする。

笑顔でごまかす。


ここは生徒のフリをする。だ!


「私2年生の者です!」


私は嘘をついていない。

心の中でそう呟く。


「へーそうなんだ。」

「はいっ!」

「それで、ここで何をしてたの?」

「……。」


最初の問答に戻り再び冷や汗が流れるも笑顔は崩さない。

にこにこしていれば、目の前のイケメンさんは「あ、」と口を開いた。


「わかった。」

「……!(ば、バレ…、)」

「さてはバレー部主将のこの及川徹に会いに来たけど恥ずかしくて体育館を覗けないんでしょう?」

「えっ、あっ、……ハイ!!」


どうやら何か勘違いをしてはいるけれどここはこのまま通させてもらおう。


「わ、私っ、及川さんのファンで!」

「んー、やっぱりね!でもこんな所から覗いてたらどこぞのスパイかと間違われちゃうよ?」


ドキーっっ!!


「そそそそそそうですよね!気をつけます!」


にこやかに笑っているはずなのにイケメンさんの目がギラリと光ったような気がする!

これ以上ここにいたらヤバイ気がする。

何も調べるとかできなかったけど帰ろう、それがいい。


「あ、しまった私用事があるので帰らなくちゃ!それでは!!」


高速でこの場から去ろうと踵を返すも腕が動かず足も進まない。

何事かと自身の腕を見ればイケメンさんに捕まれているではないか。

おそるおそる顔を上げ、「あのー、」と声をかける。

すると彼はキラキラと背後に見える程の笑みを向けてきた。


「君、名前は?」

「ハイッ、ワタクシ浅香と申します!!」

「フーン、浅香ちゃんね。覚えとく。」

「……!?あ、ハァ。」


名を名乗ればパッと腕を離され動きが取れるようになる。

覚えておくと言われた意味はよく分からないがとりあえず帰ろう。

うん、それがいい。


「そ、それでは失礼します!」


脱兎のごとくその場から逃げる。

こんなに走ったのはいつ以来だろうか。

ともかく逃げるのに必死だった私は知らない。

──他校の人だとバレバレだったとは。













「……オイ今のなんだ。」

「あー岩ちゃん。今のはねー、俺のファンの子──ってイタイ!!」

「ふざけんな?」

「やだなー岩ちゃん。俺がモテるなんて昔からじゃー…すみません。えっと今の子は、まぁ他校生のスパイってヤツかな。」

「な……!お前それ見逃したのかよ!」

「えーだってスパイっていってもヒヨコすぎてね。彼女、“素人だし”って一人言ってたし。」


ちょっと練習見た所でなんも分かんないデショ〜。と笑う危機感のない主将に怒りを通り越してため息がでる。


「あー、それにただ“大王様”を探してたらしいから。会えてよかったんじゃない?ま、俺のことだとは分かってなかったけどねー。」

「“大王様”って、烏野のチビが言ってたお前のあだ名じゃねぇか。」

「どうやら今の子は烏野の子らしいね。いやー、面白い子だったなー!きっとバレてないって思ってるだろうから。」


ハハッと笑う及川を見て岩尾はゲ、と顔を引きつらせた。


「お前、ほんっと性格悪いな。」

「なっ!?」









ひどい!ひどすぎる!











(まーいけどね!俺のファンが増えたんだから!)
(いや違うだろ。)
(なにさ、岩ちゃん嫉妬?あだだだだ!)
(つねってやろうか?)
(もうつねってる!)





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