紺屋の明後日 | ナノ


嘘に嘘を重ねて。

私の名前は「栗花落 あい」。
藍ではない。





―――――― 「 嘘に嘘を重ねて。 」




私のファンが纏めてくれたであろうページを見て、安心と罪悪感に溢れる。
書かれたプロフィールやエピソード、本当の事もあれば半分以上は間違っているし。
ファンの方は悪くない。悪いのは私。



私が参加をしている番組「PRODUCE X 101」は、近頃大人気のオーディション番組だ。およそ100人の練習生から、決められたデビューの枠を視聴者からの人気投票でデビューを勝ち取るサバイバル番組だ。シーズン1からシーズン3までデビューをした練習生は期限を決められグループとして活動をする。期限が過ぎたら自分の所属している事務所へ戻り、事務所からまたグループを出して活動したりソロで活動したり俳優になったりさまざまな道をそれぞれ再び歩き始めることになる。





これは番組が始まる少し前の話。





――――――――――――






「あいちゃん。この番組に出なさい。話は付けてあるから。」





ある時、義母にそう言われた。「期間限定」に目を付けたのが私の育ての義母だ。義母は実の母親の姉。私の両親は交通事故で亡くなっていて私だけがその交通事故で無事であった。家族を失った私を迎え入れたのが義母と義父である。






「これって…今、韓国で人気のある番組ですよね?」

「そうよ。韓国の練習生達がデビューをかけて挑むサバイバル番組。」

「…よく見たら今回は男の子のサバイバルじゃないですか。」

「そうよ。」

「そうよって…」

「だから話は付けてあるって言ったでしょう?」






「話は付けてある」その言葉にいろいろと察する。義母の旦那、所謂私の義父は芸能関係小さな事務所を経営しており芸能関係に精通している。義母は娘が欲しく、自分の娘を芸能人にさせる夢があったそうだ。だが義母には息子しか授からなく長年の夢である「自分の娘をアイドルにしたい。」という欲望を自分の心に押さえつけて居た様だ。




ちなみに男の子には芸能人という仕事はさせたくなく、医者や弁護士などにさせたい様で私の義弟に当たる息子は毎日猛勉強させられている。そんな時、容姿端麗の私が両親を交通事故で失い親戚の間で私の引き取り先を相談。義母は自分の欲望を叶えるため私を引き取ることに。そして義母は韓国アイドルに夢中のため私を韓国アイドルにさせたいというなんとハチャメチャな理由で今に至った。私がお前を育ててやっているんだからアイドルになり金を払えと。アイドルになるって楽じゃないと思うんだけど。





「私に、男の振りをしろという事でしょうか。」

「話が早いわね。そうよ。」

「そんなの直ぐにバレますよ。そしてデビューできる確証もない。リスクが高すぎます。」

「お馬鹿な子ね…この番組が全て人気投票だけでデビューが決まっていると思ってるの?賄賂よ。出来レースなの。あなたのデビューは決まってるのよ。」


「…はい?」





「私のデビューは決まっている」どういうこと?頭の中は疑問でいっぱいだったけれどこの義母のすることだ、お金が動いたかまた義母の何かを犠牲にして自分の欲を叶えるために私が使われるんだ。嘘のプロフィール設定まで義母に語られ眩暈がした。不幸中の幸いは私が幼いころからダンスや器械体操を習っていたからダンス面に関しては問題がないという事。これから何カ月間かみっちり歌のレッスンをし、数か月後のこのサバイバルプログラムに参加をするという嘘に嘘を重ねる日々を想像すると吐き気がしたのを覚えている。





「あなたは絶対に女だとバレてはいけない。デビューが決まっているということも。デビューしたら5年そのグループで活動し解散したら女だと正体を明かして日本でソロの歌って踊れる歌手になるの。どう?最高のプランじゃない?」





…駄目だ。残酷な未来しか見えない。そんなこんなで私は韓国へと渡りサバイバル番組に参加をすることになった。デビューを目指しひたむきに頑張る彼らとデビューがもともと決まっている性別も偽った私。きっと生き地獄だとその時は思った。

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