BL・シリアス・捏造要注意
ーん!



青はやがて黒になり青に戻る


「君は、命を盾にボクを求めているだけなんだろ」
「…ちっ、ちがっ…」

「違わないね、いくらボクらの関係でもあいにくボクは君に束縛されたくはないんだ」
「お前は俺のものなんじゃねーの、違うのか」
「少し前まではそれに甘んじても良かった、でも、」

屋上の貯水タンクを見上げた少年は一度言葉を切った。東の方から一陣の風が舞い込んできた、揺れる前髪に髪が目に入らぬようと目をしかめ目の前の少年に鋭い眼光を光らせた。
その鋭い光に一瞬気圧されたのか僅か数センチ後退りし、それでもなお彼は不敵に笑んでみせてきた。

「……でも、何だって?」
「今の君にボクをくれてやる価値はない、それだけの話だよ。勿体ぶる迄も無かったかな」
「あっそ、……嘘吐き、今まで俺に言った言葉はただの言葉でしかねぇの?」
「さあね、君にどんな皮肉を吐いたかなんて覚えてなどいないな」

屋上のフェンスを背に冷めた目で幾らか身長が低いボクを見下し、再度、あっそう、と感情を込めるでもなく地に落とす。
ボクはと言えば、目の前の少年の後ろのフェンス越しに見える鮮やかな青空が眩しい、あっそう、と言う言葉を耳に入れようともせずに、ただただ、空の青さを憂えていた。


「ははっ、まさかお前がそう言う奴だとは思わなかったわ。……バイバイ」


制服のポケットから剃刀を抜き取り、彼は見せ付けるように手首に押し当てた。
それを見たというのにボクは戸惑うことはなく、ため息を一つ吐き、冷めた目で目の前の彼を見やった。

「君はまたそれかい?」
「お前が俺を裏切るからな……なぁ、俺を見捨てんの?」

彼の後ろのフェンス越しの淀みのない青さだというのに、彼の居る空間だけがどろどろしてるようだ。黒い何かがボクの視界の空の青を蝕んでいるようだった。

「下らない三文芝居にはあきたよ」
「……っ、そうかよ!」

下らない口論に付き合うのも飽きた、くるりと身を翻し屋上から身を退こうとするとガシャンと大きな音がした。
彼がフェンスに脚を掛け、フェンスを越えていた。その先はコンクリートの淵があるだけ、これが何を意味するかはボクは分かっていた。だけれど、大した焦りなどなに一つ無く、ただただ冷えきった眼差しを彼に向けた。

「飛び降りる気かい?」
「ああ…止めても無駄だからな、来たら飛んでやる」
「そう、だけど、そんな心配は要らないよ。全くもって自意識過剰だよね、君は。……ああ、予鈴が鳴っちゃったな、次の先生は遅刻に煩いからね」

わざと、口元に弧を描いては今度こそ屋上の扉のドアノブに手を掛け、振り向く事無く階段を降りていった。

「ちきしょおおー!」

高い声が扉一枚挟んで聞こえてきた。不思議なことに、こんなにも冷静で居られる自分がいる。

カン、カン、規則的な足音を重ねるごとにどよめきの音も耳に入る。ざわざわ、騒がしい。


「…あーあ、ボクのせいなわけ、コレ。めんどうくさいなあ」


野次馬に向かってぽつり一言。くぁ、と一つ欠伸し何事もなかったかのように教室へ歩きだした。
廊下の窓から見えた空は綺麗な青色で、空の青を汚す黒はどこにもなく晴れ晴れとしていた。そこにはボクが憂える青などない、あるのはボクを祝福する青だけだった。

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