夏に染められた恋





「おはよう」
「おはよー」

今日も朝から練習で、いつものように部で一番遅く部室へ入ってきた。
途中通路の邪魔だったのでジャンルカのバッグを蹴飛ばしてやった。そして今、現在進行形でうめき声が聞こえる。
あー、キモチワルイ。

「おいフィディオ、いくらなんでもひど過ぎないかこの文章」
「はっ、なにを今更。初登場の俺とマルコの会話からおまえはクズだったよ」

うめき声がやがてすすり泣く声に変わる。ジャンルカの行動とかどうでもいいんだけど。

「どうしたんだいフィディオ?まあいつものことだけど。なにかあったの?恋のお悩みとか普通にわかるけど。よければ手伝ってあげるよこの弓矢で。ぼくなら一発でバッキュン☆だよ」
「ありがとうアンジェロ。じゃあとりあえずジャンルカの心臓でもバッキュン☆してあげて」
「あいあいさー」
「ちょちょちょ!おまえらの会話はマジにしか聞こえねえんだよ!つかなに?その弓矢!なんで本当に持ってるんだよおおおおry」

俺はおろか部の全員が特に気にせず各自のことをしている。俺はとりあえず自分のロッカーの前に座った。

「うっさいなー」

隣でマルコがあくびをした。うん、平和だ。今日もサッカー部は平和だ。

「そうだフィディオ、思い出した。昨日さ、」

なまえが、泣いてたよ。
マルコはいつものように平然と言った。

「なまえが……?」
「そう。俺はまだ、諦めるのは早いと思うけどなあ」

ガタンッ、自分でも驚くほどの勢いで俺は立ち上がった。それまで顔を上げなかった者もギョッとしてこっちを見た。

「待てよフィディオ!おまえ別れたってマジ?所詮そこまでだったんだな!まあ、夏の恋は熱しやすく冷めやすいって言うしよ!」
「ピー―――ピー―――――ピー――ピー――――」
「うわあもう表記すらされてねえじゃん!つーかおまえどうしたらそんな次から次へと毒吐けるんだ!……いててててっ、やめろアンジェロ。俺泣きたい。肉体も精神もボロボロだ」
「逝けよ還ってくんな」

ジャンルカにそう告げるとドアの前まで駆け寄る。
あとはみんなの苦笑った顔が背中を押した。行ってこい、と。








翌日の朝、私は普段通り学校へ登校した。
校門をくぐり抜けてからの私の気迫はすごかったんだとか。あとで友達にそう言われた。
教室に向かう途中、フィディオを見かけた。チャンスだ!と思って近寄ろうとしたら、周りに群がる女子が邪魔でとても無理だった。
フィディオもいちいち邪魔だろうなあ。私だったら絶対に持たないよ。
願いも虚しくとぼとぼと教室へ歩いて行く。よし、また次があるよ!
自分に言い聞かせて意気込んだ、その瞬間。

「ちょっと、話したいことがあるんだけど……」

それは流星のような速さで私の肩を叩き、他の人に聞こえない大きさの声でフィディオが、そう。あのフィディオが言った。

「……え?じゃあ、」
「またお昼休み」

そしてまたもや流星のような速さで走って行った。
そのとき私は、夏の太陽よりも頬が熱かった。