甘いの時々ビター





「なまえー」

私の隣に擦り寄ってきたのは白い流星、フィディオ。

「なに?」
「なに?じゃないよね。俺まだなまえからもらってないよ」
「いらないじゃん。さっきあんなにもらってたくせに」
「……ごめんってば」

今日は記念すべきバレンタイン・デーなのに、フィディオったらファンの子たちから、腕に溢れ返るくらいチョコやらクッキーやらもらってたのだ。
「有名」なんだから仕方ない。そんなことはわかっているのに、いざとなるとなかなか割り切れたもんじゃない。
それに、ファンの子たちと言うとかわいらしいラッピングで、とびきり料理の上手そうな子たちなのだ。

「私の手作りなんてクズ以下だよクズ。そこの猫さんと一緒にごみ箱漁ってきた方がいいよ。それともファンの子たちの食べてくる?衛生的には一番いいと思うけど」
「ひどっ」

これだけ言ってもまだうだうだ言ってるよ、この流星くんは。

少し気になってチラリと目を上げると、フィディオの碧い瞳が私の顔を覗き込んできた。
意地になっていることが恥ずかしくて、すぐに顔を伏せる。
そんな私に愛想が尽きたのかフィディオは、向こうに駆けて行ってしまった。
あー私のバカ。もうちょっとかわいいこと言えないのかね。
悶々と三角座りでひとり反省会をしていると、上からフィディオの声がした。

「なまえ、」

嬉しくて顔をガバッと上げる。

「ほら、にゃー」
「ニャー」
「……わわっ」

フィディオが抱きしめていたのは、さっきの小さな子猫だった。
子猫を私の前につき出して、にこにこするフィディオ。それよりもさっきの「にゃー」ってかわいいなフィディオ……。

「なまえ、猫さん好きだよね」

こくこくと頷くと、フィディオが一層嬉しそうになったのを見てホッとした。

「ね、元気出してよ」

フィディオが悲しそうに言うものだから、本音をこぼした。

「ごめん。ごめんね。私がいけないのに。フィディオは悪くないんだよ……」

フィディオの手を握りしめて、涙をポロポロと流した。
「ん」とフィディオは私の手を握り返し、額に、瞼に頬にキスを落とした。

「もう、我慢しないから」



……子猫は私たちをずっと眺めていたんだとか。