Mis3 scene7 | ナノ




── scene 7



「ここってあんな仕事も請け負うんだ……」


 書類を抱えて思うのは、さっきレンとリンが遂行した任務のこと。揃って指令室へと帰って来たレンの腕は、ターゲットがしっかりと抱えられていた。逃げ出さないように四苦八苦していたレンを、リンは面白そうに見ていて、手伝う気はさらさらないようだった。メイコさんに至っては、げらげらと大笑いしていた。なんか不憫。そう思う私だって、笑いを堪えるのに必死だったけど。
 だってレンが抱えてるのは、

『わんっ』

 可愛らしいわんちゃんだったから。レンと犬という組み合わせが妙に似合っていて、なんだか可愛かった。
 そう、ターゲットの正体は、茶色の中型犬。元気よく暴れていたものの、首にはエリザベスカラーを巻き付けていた。あれでよくあの二人から逃げ回れていたなぁ。結構捕まえられるまで時間かかったみたいだし。リンの大きな銃は、弾丸の代わりに網が発射される捕縛用のネットガンだった。
 結局あのわんちゃんはメイコさんの手で飼い主の元に戻された。怪我をしていると聞いたわんちゃんだけど、私にはそれよりも飼い主のおばさんの方が重傷に見えた。なんたって噛み傷やら引っかき傷やらがあちこちにあるんだもの。
 よっぽど手を焼いているんだなぁ……。
 

「よしっと」


 リンの部屋の前まで辿り着き、ノックをするために片手を挙げる。


「リンー?」


 あれ。返事がない。もう一度ノックをするも、同じ。どこに言っちゃったんだろう、レンの方かしら。そう思いつつ、何とはなしにドアノブを回す。


「? 開いてる…」


 リン、いるの、とおそるおそる中を覗きこんで──ぎょっとした。


「ん……」


 ドアを開けて、四、五メートル先。絡まり合う二つの影。


「ごめんなさいっ!!」


 私は慌ててドアを閉めて、蹲る。何かもういつかと同じだけど、見てしまった光景はちょっと違ってて。
 ……キス、してた。
 リンの手はレンの首に、レンの腕はリンの腰にそれぞれ回っていて、これでもかってほど密着していて。
 しかもあろうことか。


「〜〜〜〜笑ってたわよね……っ」


 唇を合わせたまま、二人はこっちを向いてにやりと笑ったのだ。
 生れて初めてラブシーンを目撃してしまったことと、笑われたことへのもやもやでうんうん唸っていたら、


「ああミク、これ持ってきてくれたの。ありがと」
「さっきの報告書か。大変だな」
「何他人事みたいに言ってるのよ」


 落ちていた書類に白い指が伸び、拾い上げた。
 いつの間にかドアが開いて、二人が出てきたみたい。思わず立ち上がって文句を言おうと口を開く…けど、何て言ったら良いかわからない。結局金魚みたいに間抜けに口をぱくぱくさせるだけになってしまった。
 そんな私を見て、二人はくすくすと笑う。


「心配掛けたわね」
「悪かったな」
「!」


 もしかして。
 二人の様子がおかしいのを心配していたから、もう大丈夫ってことであんなところ見せたのかしら…。


「ミク、百面相」
「面白いな」
「〜〜やっぱりからかってんのね!」
「え、今気付いたわけ?」
「レン、リンっ!」
「今あたしは関係ないわよ」
「リン逃げる気か」
「同罪よっ!」


 前言撤回。
 いくらなんでもあんなことしなくったって良いはず! もう、信じらんない!
 怒って振り上げた拳を避けるように、二人が笑いながら走り出す。それを追いかけるうちに、いつの間にか私も笑い声を挙げていた。


【MISSION 3】標的を捕獲せよ
――Complete.



20121120



 街中で犬追っかけるシーンとレンがリンを押し倒しているシーンを書きたいがための今回の話。
 拙宅内で一番大人な関係っぽく書こうと思ったんですが、レンがあらぬ方向に暴走しようとするのでちょっと難しいです。うん。その分ミクが書きやすい。ミクは一生懸命な女の子主人公みたいなイメージで書いています。でも何故かレンとフラグが立っていそうな立ち位置なので、気をつけねば。
 レンリンは固定です。
 次はもうちょっと登場人物増やしたいな。少なくともあと三人は出す予定。