Mis3 scene6 | ナノ
──scene 6
「この…っ」
袋小路に追い詰めたと思いきや、敵もさる者、ひらりとかわされる。情報によれば怪我をしているらしく、また視線が利き難い被り物をしている、ということだったが、その弱点を全く感じさせない軽いフットワーク、更には地の利を生かしているようで、あと一歩のところで逃げられる。
しかしそれは、リンも同じだった。街中は障害物や人が多く、得意の銃を使いづらい。また、捕獲に使おうとしている「あの」銃は、確かそこまで射程距離が長くなかったはずで、近付くにも苦労しているらしい。いくらリンが身軽で足が速くとも、標的の俊足には敵わないようだった。街の大通りを追いかければ、通行人の好奇の目が突き刺さる。このまま時間を掛け過ぎては、SOJの名折れだ。
何度目かにターゲットを逃したとき、戦意にぎらぎらと輝いた二対の目が交わった。
それで十分だった。
レンもリンも、もはや戦場に生きる獣にすぎない。たんッ、とリンの足が地を蹴る。ブルンとエンジンが鳴り、バイクが走り始めると同時に、後部座席に人一人分の重みが加わった。
「次で決めるぞ」
「了解」
カシャン、とリンが弾丸を込める音がした。獲物は大通りをはしり、 そのまま右へ曲がる。好都合、その先は人通りが少ない裏道。
パシュ、パシュ、リンが引き金を引く。その銃はいわゆる水鉄砲、だがカイトが改良に重ねたため、結構な威力がある。銃口を飛び出した水が、獲物の逃げ道を塞ぎ、誘導していく。
そして。
バイクの前輪が、がこんと音を立てて転がっていた拳大の石に乗りあげる。宙に浮く車体を、レンは軽々と操り、束の間標的との距離が縮まった。
リンはそれを逃さず、腰の大きな銃を構えた。銃口から飛び出たのは、殺傷能力のある弾丸ではなく、それとは正反対の──怪我をさせないための──網だった。
20121116