Mis3 scene2 | ナノ
──scene 2
勢い良く音を立てて閉まったドアに目をやってから、リンは己を組み敷く男を見上げる。
今度は若い男。さっきのような中年男ではなく、男のくせに端正な顔をした、リンのパートナー。
「誤解されちゃったわよ、きっと」
「何を誤解されるって言うんだ」
表情の見えない目が、少女を射抜く。そう、いまだ少女と呼べる年のリンは、怯えもせずそれを受け止めた。
今更怯えていては、そもそも戦場では生き残れない。
ふっと、紅唇から笑みが漏れる。
「仕事サボってるんじゃないかってことよ」
「……チッ」
レンは乱暴に舌打ちすると、リンの上から退いた。足音高くドアまで歩く様子は、わかりやすくイラついている。年頃の少年めいた仕草に──実際彼も、少年と呼べる年ではあるのだが──、リンの紅唇がますます吊り上がる。
SOJの先陣を切っているレンとリンは、だからこそ実年齢より大人びていた。早く成長しなければ、生き残れなかった。
レンは皮肉な目と、ぶっきらぼうな言動をするようになり。
リンは艶やかな微笑と、男たちを誘惑する術を身に付けた。
それを、レンは怒っているようだった。否、「それ」と言い切ってしまっては語弊がある。リンはそれを、よくわかっていた。
レンはドアの前で振り返った。その目は『一見』普段通り。
「リン、一旦休戦だ。仕事に戻ろうぜ」
「オーケイ」
中断させたのは誰よという反論を呑みこんで、リンはベッドから軽やかに飛び降りた。レンが持ってきた銃の数々をあちこちに仕込み、レンの隣に並ぶ。部屋の隅に縛られ気絶した中年男には、もう目もくれない。どうせそのうち警察の面々が片付けるだろう。
「行くか」
「ええ」
ドアを開けると、すぐそこには華奢な後ろ姿がしゃがみ込んでいた。
「ミク?」
短くなってしまった髪を低い位置で二つに縛ったその後ろ姿は、けれど何故か身動ぎしない。耳を澄ませてみれば、ぶつぶつと何か呟いている声も聞こえた。
「………どうしよう……メイコさんに何ていえば………………」
レンとリンは顔を見合わせる。どうやら彼女は気付いていないらしい。
「ミク?」
「ひゃあ!」
ちょん、とリンの細い指がミクの肩をつつく。と、ツインテールの少女は大袈裟なほど飛び上がった。振り返ることに失敗し、尻もちをついた彼女は湯気が出ていないのが不思議なほど真っ赤だった。
「ごごごごごごめんなさい! 私ジャマするつもりはなかったんだけどっ!」
「あら。遠慮しなくて良いのに」
「そうそう。何ならミクも交ざるか?」
「はぅっ!?」
目を回している少女の様子に、二人は揃って吹きだした。そしてその表情のまま、突然。
「う、おおおおおおお!!!」
「おっと」「っ!」
残党か、襲いかかって来た男にそれぞれ突きと蹴りを喰らわせ、何事もなかったかのように笑った。
鮮やかなまでの動きに、ミクは声をなくして目を丸くしている。
「悪い悪い、冗談だ」
「ごめんね。呼びに来てくれたのよね」
「っ、からかったわね!?」
「だから謝ってんだろ」
「行きましょ。メイコにどやされるのはごめんだわ」
「〜〜もぉー! さっきのも私がいるってわかっててやったんじゃないでしょうね!」
じゃれあいとも呼べるような会話を交わしながら、そして何度か、潜んでいた残党を蹴散らしながら、三人は下っていく。レンもリンも、もしかしたら若干攻撃の手が荒々しかったのか、ミクは終始、困惑した目をしていたようだった。
20121113