Mis3 scene1 | ナノ




──scene 1



 【Statue of Justice】に所属して、暫らくが経った。そう、結局私ことミクは入ってしまったのだ。

 メイコさんによれば、人身売買関係で動いていたところで私が拐わされたことを知り、救出を働きかけてくれたとのこと。やっぱり正義の味方っぽいことをしないとね、とルカさんは格好良くウィンクを決めていたけれど、あのまま捕まっていたらと思えばその胡散臭い台詞も有り難く聞こえる。けど、単なる人身売買なのか、それとも別の目的があって私を攫ったのか分からない以上、元いた街に戻るのは危険だと思っていたら、メイコさんが提案してくれた。
 ここで働くのはどう? と。
 それ以来、事務兼メイコさんのアシスタントとして、書類整理や電話対応、雑用の仕事をしている。私も根なし草みたいなものだし、あの街にこだわりがあったわけでないから、正直助かったかも。泊まり込み食事付きなんて魅力的だわ。

 室内の仕事ばかりしていた私だけど、今日は麻薬関係の大捕り物があるらしく外に刈り出された。建物の中の人たちを連行する地元警察の傍ら、メイコさんの補佐を務める。


「……Shit.」


 メイコさんがいきなり舌打ち。普段は優しく頼れるお姐さんだけど、こういうときの彼女は凄まじい形相。偶然こっちを向いた筋骨隆々なおまわりさんも蒼褪めている。


「ったく何で戻って来ないのよあいつら!」
「あ、あの、メイコさん? あいつらって、レンとリンのことですか?」
「そうよ。無線も繋がらないし、何やってんだか」


 この仕事をこなすにあたって、確かレンは突入部隊に、リンは内部工作班に回っていたはず。私より幾分年若い二人だけど、実戦経験は誰よりあるとメイコさんが(嫌々ながらも)太鼓判を押していた。一体今までどんな人生送って来たのかしら。


「わ、私探してきます!」
「そう…ね。今はもう警察も中に入ってるし、そう危険もないでしょう。お願いするわ」
「はい!」
「あとこれ、使って」


 と投げ渡されたのは、手のひらサイズの小さなモニタ。線が走っていたり、文字が並んでいたり、ぴこぴこと点が光っていたりしている。


「これは?」
「受信機。レンの無線機に発信器が仕込んでるから、レンの場所はわかるはずよ。リンも多分、一緒ね」
「わかりました!」


 私ははりきって敬礼すると、モニタ片手に建物内に入る。警察官が警備していたけど、メイコさんの隣にいた私は顔パスで入れた。背高のっぽのホテルのようなビルは、中は金ぴかの像が並んでいたり、柄が重なりすぎて目に優しくない家具がたくさん置いてあったりで、正直趣味が良くない。今は警察の人がたくさん忙しく動いているようだから良いけど、一人じゃ絶対入りたくない場所だわ……。
 モニタを苦心しながら操ってみると、レンの居場所は多分、最上階。メイコさんも言ってたけど、あの二人は大抵一緒にいるから、きっとリンもここだと思う。エレベーターを使ってあっという間に上に行き、きょろきょろしながら光が点滅する部屋へ。
 ここ、よね?
 モニタで確認して頷き、ノブに手を置いた。


「あのー、レンとリン、います…………」


 部屋に足を踏み入れたところで、私はぴたりと止まってしまう。
 いた。実際、モニタに表示された通り、二人はこの部屋の中にいたのだけれど、問題はその…二人の体勢、で。

 端的に言えば、レンがリンを組み敷いている。ベッドの上で。


「〜〜〜っ、失礼しましたッ!」


 私は物凄い勢いで回れ右をすると、部屋の外に飛び出てドアを閉めた。そりゃもう今なら世界記録出せるってくらいに、勢いよく。


「び、びっくりした……」


 ドアに背をもたせて、息を吐く。
 聞いたことはなかったけど、あの二人きっとそうかないかとは思っていたわ。やっぱり、そういう関係だったのね…。



20121109