Mis1 scene4 | ナノ
──scene 4
髪をばっさりと切り落とし、端を結んだそれをリンさんが帽子の中へ隠す。簡単な身代わり作戦は、幸いにもうまく行ったみたい。とはいえ私は何もしてなくて、ただ手を引かれるがままに走っていただけ。
レンさんが階段を上るぞ、と叫んだことは覚えているけど、あとはどこをどう走ったのか、気が付けば無事に建物の外に出ていた。隣接する他の建物の陰に隠れるようにして移動する私たち。私は何度となく後ろを振り返ったけれど、彼は振り返ることなく進んで行く。
「ねぇ…あの人は大丈夫なの?」
「あの人? ああリンか。ちゃんと奴らを引き付けといてくれるだろ」
「そうじゃなくて!」
「心配いらないよ、あいつなら」
そう自信に満ちた声できっぱり言われてしまうと、もう何も言えなくなる。
私は黙って彼の後ろをついていき、すぐにある一軒の家のガレージに泊められているオープンルーフの赤い車に乗せられた。
「こ、これ盗難するの!?」
「失礼な。俺の愛車」
エンジンをかけ、彼は何やら運転席に蹲り何かしている。後部座席の私にはよく見えないけど。
よし、と彼が運転席に座った。しっかり捕まってろよ、と私に声をかけ──発車する。ちょ……っ!? いきなりの荒い運転に舌を噛みそうになった。慌ててドアの取っ手に捕まる。これ…急ブレーキかけたら簡単に飛んで行きそう。
短くなった髪が、乱暴な風に揺られていく。肩に届くか届かないかくらいの長さ。こんな短いのなんて、何年ぶりだろう。
髪を切れる、そう聞かれたとき、私は即座に頷けた。長い長い髪は私のお気に入りでもあったけど、正直手入れが面倒くさくていつか切ろう、いつか切ろう、そう思っていたから。
短い髪は、とてもすっきりする。
鏡を見ていないから、似合っているかどうかはわからないけど。
「ナイスタイミング!」
彼は嬉しそうに叫ぶと──驚いたことに、その場で立ち上がった。つまりハンドルに手を置いていない状態。それなのに車はまっすぐ走り、減速もしていない。幸い道はまっすぐだけど……何やってんのこの人?!
その答えは、すぐわかった。
ぱりーんと、軽い音がして。
怒号が降ってくると同時に。
「なっ!?」
リンさんが、降って来た。
どこから落ちてきたのかわからないけど、レンさんは彼女を軽々と抱き留めると、助手席に下ろす。そのまま再度ハンドルを取って、今度は蛇行運転を始めた。何かと思えば、後ろから何か聞こえる。ていうか何か飛んでくるんですけど。怖くて見たくもない。
「頭引っ込めててね」
リンさんは私に声をかけると、自分はおもむろに助手席に立ち上がる。この蛇行運転の中なんで立てるの!? 足元を見ればベルトに引っかけている。にしても脅威のバランス力だ。
彼女は片足を座席の背もたれに下ろし、そこに体重をかけた。スカートがはためいて、真っ白な足──どころか下着まで見えている。黒い派手なレースの下着。色気たっぷりのそれを惜しげもなく晒す様子にこっちが赤面してしまう。聞き違いか気のせいか、後ろで派手なクラッシャー音が聞こえたような。
何も言えないでいると、彼女はどこから取り出したのかサブマシンガンを構え、発砲した。こっそり後ろを振り返ると、追ってくる何台もの車がくるくるとクラッシュしていく。前の車が駄目になってしまうと、後ろがつかえてしまうようだ。どうも彼女はタイヤだけを狙っているようで、その腕前に舌を巻くばかり。
けれどどこにも執念深いのはいるもので、後から後から車が湧いてくる。どうするのかと思えば、彼女はちらりと周囲に目をやった。見ればいつの間にか街を出て、道の周りは荒地ばかり。
にっこり。その笑顔に空恐ろしいものを感じる。彼女は今度は手榴弾──手榴弾!?──を取り出すと、笑んだままそれに口付ける。ちゅ、と軽いリップ音、そのまま紅い唇でピンを引き抜き、何のためらいもなく投げた。
投げた。
「──3、2、1、」
それに驚いた後ろの人たちは、慌てて車を止めると逃げていく。
「BAAAAAAAAANG!!」
楽しそうな声と共に、爆音を上げた手榴弾。眩暈がしそうだ……。
「うわ何今の音。こないだより酷くねえ?」
「改良してもらったのよ。いいでしょ」
「この爆弾狂」
「何よ車オタク」
二人はそれぞれ運転席と助手席に座り、呑気な会話をしている。蛇行運転はもう終わったのは有り難いけど。
ミク、とレンさんが呼んだ。
「このまま本部に戻るけど、良いな?」
「本部?」
「俺らの上司? みたいなのがいる場所。とりあえずな」
「…わかった」
どうやら、悪い人たちじゃないみたいだし。多分。頷くと、ひゅうと口笛が聞こえた。
「任務完了」
晴れやかな声も、一緒に。
【MISSION 1 少女を救出せよ】
──Complete.
20120810
ということで前から書きたくて書きたくてたまらなかったドライバー×スナイパーです。
ちょっと今までのとは違う感じにしたくて四苦八苦してます。西部劇みたいなのやってみたかったのです。あとお色気担当、パンツもろ見せリンさんとか(笑)
妄想しているときに『escapade』聴いてたら見事にぴこーんと来てしまいました。何あのイケリンイケレンかっけええええええ!
そんな感じで一回目は曲パロでいきましたが、次回以降は普通にオリジナルで突っ走ります。気が向いたときに出没しますのでよろしくお願いしますm(__)m
あ、あとこれはもしかしたら「え…? レンリン? レンリンサイトだよね…?」となるシーンが出てくるかもしれませんが、レンリンサイトです、ご安心ください。とはいえ多分これは恋愛要素薄いと思われます。