Mis1 scene3 | ナノ




──scene 3



 いまだ爆音が響く建物。とはいえそれは小さな爆発ばかり、おもちゃのような爆弾で、実害はないに等しい。最初の爆発物だけが本物だった。
 そこを、警備員の制服を着た三人が足早に走り抜ける。雑然とした周囲は「いたか!?」「緑髪だ!」「畜生、また爆発したぞ!」などと苛立たしげな言葉を交わして過ぎていく。
 突然、三人の警備員のうち最後尾にいた人間が体勢を崩した。転びはしなかったが、帽子がずれて──緑色の長髪が流れる。慌てて髪をしまおうとしても、もう、遅い。


「緑の髪……!」
「いたぞー!」
「掴まえろー!」


 前の二人は目を交わすと仕方ないとばかりに肩を竦める。


「任務は失敗だな。逃げるか」
「──ええ」


 次の瞬間、一人が何かを投げ捨てた。煙玉。廊下は一瞬にして煙に包まれる。慌てて何人かが窓を開け、煙が晴れると──。


「! あっちだ! 階段を上るぞ!」


 怒号に振り向けば、たなびく緑の髪が角を曲がって行った。どたばたと不器用そうに走る音が一つ。足元がおぼつかないのか、短い悲鳴も聞こえる。
 群衆は逃がしてなるものかと歯を食いしばり、その小さな影を追っていく。不思議なことに、追えども追えども捕まらない。どこにでも人間はいるのだから、騒ぎを聞いた向こうの人間と挟み撃ちになっても良いはずなのに、ひらりひらりとかわされるのである。群衆はますます躍起になっていく。
 けれど、さすがに一対多数だった。逃げ切るのは限度がある。三階の広間部分で、途方に暮れたように立ち尽くすワンピース姿の少女。目前には窓、背後には追手が多数。


「逃げきれないぞ。大人しくしろ」
「……」


 少女は振り返った。その表情は酷く固く、狼狽しているよう──では、なかった。
 嫣然と。
 少女は、笑う。


「お疲れ様」


 涼しげな口調でそう言うと、少女はスカートをたくしあげた。白く長い肢体に男だらけの群衆は目を奪われるも、その太腿にぐるりと巻きついているのが何か悟ると彼らはその目を剥いた。
 少女の華奢な両手に、丸みを帯びた柔らかなシルエットの、四十一口径小型銃。


「!? ふ、伏せろっ!」


 武器を取る間もない。彼らは動けなかった。
 少女はそんな群衆を一瞥すると、くるりと振り返り走り出す。窓の方へ。そして乾いた音が響いた。
 窓が、割れる。
 群衆が止める間もなく、少女は割れた窓の外へ身を躍らせた。その拍子に帽子が外れ、下から現れたのは太陽も平伏さんばかりの金糸。



20120809