Mis10 scene? | ナノ





――scene ?



 彼は、俺とよく似ていた。背格好のことだ。遠目からだと判断に迷うとよく言われることがあった。
 第一印象は俺にとってはとても悪かった。貴族の若い男。学校なんて所詮道楽の一つでしかないくせに。こっちは必死に生きながら、なんとか通っているくらいなのに。
 けれど背格好のことでとやかく言われるうちに接点が増え、いつの間にか仲良くなり、共同で研究するほどになった。接してみれば、貴族とは思えない学者肌で浸食を忘れて研究に没頭したり、俺や他の学生と討論することもしばしばあった。
 俺たちは研究をしているうちに、ある爆弾を作った。作り上げてしまった。酷く効率的な爆発薬で、これなら少量で大きな爆発を生み出せる。それがもたらす効果など考えることもせず、新しいことが出来た充足感で一杯だった。それをどう応用すれば生活のかなめになるか、楽しく語り合った。

 その一報は酷く残酷だった。

 俺たちが開発した爆薬が、戦争で使われた。俺たちの研究が、大量殺人に手を貸した。
 そう望んだわけじゃなかった。彼は酷く純粋な男だった。いつか誰かの生活の役に立つ、側にあるのが自然なくらい当たり前になるものを作りたいと言っていた。研究者として、発明家として、夢を持っていた。決してひとを殺すことを望む男ではなかった。
 俺は学生として国の学校に所属している以上、意に沿わないこともあるだろうと割り切っていた。実に淡泊な反応だったのだろう、それも相まって、彼はどんどん、狂い出していった。罪悪感に押し潰され、時に泣きだし、後ろを気にして、呪われているだの、殺されるだの、妄想にとりつかれていった。俺は、そんなことあるわけないと、言い続けることしか出来なかった。
 ある日、彼はその頃には珍しく機嫌がよさそうだった。研究室に妹を連れて来て、すごい発明が出来そうなんだとはしゃいでいた。

『なぁ、こいつを預かっててくれよ。物凄いものが出来るんだけど、ちょっと危ないんだ』
『大丈夫か、カイト? お前クマすごいぞ』
『良いから良いから』

 彼は、明日の朝妹を連れて家に来てほしいと言って帰って行った。俺はどうしたものかと思ったけれど、その子は眠たいのだろう、すやすやと眠っていたので、俺も仕方なく研究室で夜を明かした。

 翌朝、彼の家は燃えていた。
 俺は約束通り彼の妹を連れて来ていたが、連れて来なければよかったと後悔した。彼女はじっと燃えて朽ちていく家を見つめていた。青い目に炎がきらきらと反射して。
 後で知った、焼け跡からは惨殺された彼の両親と、焼け死んだ彼の死体が見つかったそうだ。
 彼の妹は、それでも、ショックを受けた様子も無かった。実に変わった少女だった。どうしようかと途方に暮れた。あなたはだぁれと無垢な目で問われて、俺は、

『俺は、カイトだよ』
『あら、兄さんと同じ名前』
『そうだよ、俺は君の兄さんだ』

 そう、答えた。
 俺は大学を辞めて、国を出た。「妹」を連れて。


「兄さん……?」


 ぼんやりと目を開けた彼女は、俺を見上げて笑った。どうしたの、と問いかけると、夢を見たと言う。


「何の夢?」
「忘れちゃった。それより、」


 俺の腕から降りた彼女は、いつの間にか立っていたルカを見る。ルカはにこっと笑って、俺に車のキーを投げ渡した。


「彼らは先に行きましたよ。後は私が消しておきます」
「頼んだよ」
「はーい」


 妹と腕を組んで、車を目指す。最後に、妹がルカを振り返った。


「ねぇ」
「なんですか?」
「さようなら」


 ルカは笑って何かを言って、手を振った。


「急ぎましょ」
「そうだね」
「早く行かないと、良いとこ全部取られちゃうわ」


 小走りになるリンに付いて行きながら、そうだね、と笑う。
 俺はいつしか、気付いた。


『兄さん、今度はこういう爆弾が見たいの』


 ああ、あの男は妹のために爆破物に手を染めたのか。守ってほしいと希った存在は、お前を破滅に追いやったその爆破物が大好きだという。
 それは、なんて。なんて――。









20160528