Mis10 scene4 | ナノ





――scene 4



「あたしの職場に残ってた三人はね、賊じゃないのよ」


 SPに言い聞かせるように、メイコさんが笑った。若いSPはがたがたと震えている。


「どうして、賊だなんて言ったのかしら。どうして、ウラギリモノと通じているのかしら」
「わ、わたし、は」


 ウラギリモノ。
 ――でも、どうして。


「何で、ミクオが……」
「情報を漏らしていたのはミクオだった。それだけのこと」
「メイコさん!」
「メイコさん、いつから僕のこと疑ってたんです?」
「グミに、あんたのこと調べてもらったときから」
「怪しいとこなんてなかったはずですけど」
「なさすぎたのよ。良い子ちゃんのミクオくん。グミはあれでも仕事はしっかりしてるの。賭場荒らしの坊やが、どうしてあんな完璧なプロフィールしか出てこないのかしら?」
「なぁんだ」


 ミクオが、爽やかに笑った。
 ぞくりと粟がたった。


「ひとが悪いな、メイコさん」
「あんたの子飼いも合わせてわかったから、よかったわ」


 ちろりと目を向けたのは、さっきの若いSPだった。見れば、周囲が目を剥いている。誰だ、とか、ジョンじゃない、とか、そんな囁きが聞こえた。成り代わり。本物は別なのだ。
 私も、酷くぼんやりしていた。


「くそっ」
「きゃあ!?」


 その人が、私に掴みかかってきた。片手にはナイフ。それを、私の首に当てて。


「み、道を開けろ! この女がどうなっても良いのか!」


 動揺する。
 首に冷たい金属の形。蒼褪めた周囲の顔。見開いたミクオの目。つまらなさそうなレンの欠伸。絶句している大統領。そして。
 冷静に私を見つめる、メイコさん。


「ミク」


 その声に、大統領が振り返っていた。そして再び驚いたように、私を見ているのが視界の端で見えた。


「メイコさん、やめろ。ミク、そんな顔、しないでくれ、頼むから……!」


 懇願するように、ミクオが唸った。そんな顔? メイコさんに、何をやめろと言っているのかしら。
 わからなくて、困ってしまう。
 かつん、かつん、メイコさんがお構いなしに距離を詰めようとする。私を捕まえた男が怯えたように私を捕まえたまま後退りをして、首の皮膚が少し切れた。
 ナイフの使い方は、そうじゃないでしょう。
 勝手に身体が動いた。男の視線はメイコさんに釘付けで、私の動きなんかみてなかった。そっとナイフを握る男の手に触れて、ナイフを持つ手ごと捻ってそして、


「ばぁん」


 ハートマーク付きの銃声が聞こえた気がした。それは気のせいかもしれないのに。
 はたして。
 私が完全にナイフを奪い取る前に、男の身体が崩れ落ちた。え、と、うろたえる隙もなく、男がどうと背後に倒れる。
 死んでいた。
 額に穴が空いている。銃創だった。驚いた顔をしたまま、男が死んでいた。
 ざわりと湧き立つSPの人たち。大統領の前に立ちふさがる人もいれば、銃を構える人もいる。けれど、そんな彼らをあざ笑うかのように次々とどこからか飛んでくる銃弾が彼らを薙ぎ倒していく。


「…………」
「あの子の本職はスナイパーなのよ」


 銃弾が飛んでくるのは、二階の窓のずっと向うだ。でもきっと遠すぎてこちらからじゃわからない。SPの人たちは大統領を死角へ誘導している。


「ああ、やっと、十二時だわ」
「え?」


 次の瞬間、どかん、と、派手に爆発音が響いた。屋外の人たちが慌てている気配がする。どうしてかわからない。時計は、十二時十分。
 メイコさんが笑った。楽しそうに。


「我、ここに叛旗を翻す」


 “Statue of Justice”――「正義の象徴」のリーダーは、宣言した。









【MISSION 10】裏切り者を捕えよ
――Complete?







20160528