Mis10 scene2 | ナノ





――scene 2



 階下に戻ると、いたのはルカさんだけだった。


「どうだったかしら」
「リンが頭をね」
「あら。もともと軽い頭だからいいんじゃない?」
「手厳しいわね。あの子が軽いのはお尻でしょ」
「うふふ」
「ミクオとレンは? あいつらどこで油売ってるのよ」
「一回戻ってきたわよ。レンは車の用意をしに行ってるわ。ミクオはそれについてった」
「そ。じゃあ行くわよ二人とも」
「Yes,Mom」
「え、え、」


 私ただの事務なのに、とはこの際言えない。というか、本当に話がいきなりすぎてよくわからない。どこに行くというのかしら。
 地下の車庫に行くと、もう二人はレンの車に乗り込んでいた。一旦ミクオが降りて怪訝な顔をしている。レンも降りて、ルカさんに荷物を運ぶよう指示されていた。二人揃って車庫の外にある鞄を取りに走っていく。


「メイコさん、これからどうするんですか」
「あたしの家に行くわよ」
「脅迫状に屈するんですか!?」
「ここにいてもね、爆発物が仕掛けられてるってことは場所が割れてるんでしょう」
「だからって……リンとカイトは?」
「居残り」
「危険じゃないんですか!?」
「怪我してるのよ。リンが足を骨折」
「っ……怪我人置いて、危ないでしょう!」
「あの二人なら大丈夫よ、それにあたしがここにいない方がいいもの」
「狙われてるのは貴方ですもんね」
「あんたたちも危ないのよ? これまでのこの国の事件を考えると、係累どころかその場にいた人間、少しでも関わりのあった者まで及んでるからね」
「…………」
「あたしから離れても良いけど、どうする?」


 迷うように揺れる視線。それが、私を見た。
 どうして。
 少し、疑問に思う。ミクオに余裕がなさそうに見えた。こいつは、何を迷っているんだろう。


「ミクは、あたしから離れない方が良いわ」
「え?」


 メイコさんを見上げる。彼女はにこりと笑って私を見下ろした。


「どうしてですか?」
「ねぇ、どうしてうちに来たのか覚えてる?」
「そりゃ、」


 突然得体の知れない男たちに連れ去られたところをリンとレンに助けられて、SOJに入ることになった。まとめればたったのそれだけ。


「あれね、どうしてあんたが狙われていたのか、まだわかってないの」
「え? あれって、無差別な人攫いじゃなかったんですか?!」
「それすらもわかってないのよ。だから万が一があったら困るもの。うちの社員だからね」


 初めて、メイコさんが格好良いと思った。いや、頼れる人なのは知っているけど、悪鬼のごとき表情ばっかり浮かべてるから。
 ミクオが諦めたように肩を落とした。


「……ミクが残るなら僕も。ていうかメイコさん、僕のことも守ってくれるんですよね、社員だし」
「野郎は自分でどうぞ」
「うわ、性差別だ」


 準備出来たぞ、と声がかかる。レンが機械油に汚れた顔で笑った。


「つーか、リンは?」
「カイトと一緒にいるわ」
「げ、あのシスコンブラコンまたか」


 大して心配でもなさそうに流して、レンが乗りこんだ。私もメイコさんに背中を押され、後部座席に乗り込む。


「あれ……ルカさんは?」
「あの子もお留守番」


 見れば、ルカさんは遠くなっていく景色の中でにこやかに手を振っていた。
 そして、もう一人。


「……神威さんは」
「さあね。あの人は気が向けば来るでしょ」


 そう。








20160528