Mis9 scene4 | ナノ





――scene 4



 街外れの大きなおうち。
 広い庭に、頑丈そうな立派な門。家族団欒に良さそうな広いリビングが見えている。
 家族団欒なんて、今は望めそうにもないご家庭だけど。
 薄暗い夕闇の中に浮かび上がる灰色の外壁は長年の風雨に晒されて汚らしく、窓ガラスも割れて荒廃した室内が見て取れる。ぎぃぎぃと外れた門扉が揺れているのが不気味だった。
 どうして取り壊していないのか疑問なくらいの廃墟に、私たちはいた。というか、


「あんた、体術も出来たの」
「いや、まぁレンとかリンみたいな動き求められたら困るけど」


 地面に這い蹲る中年男の手首を背中側に回し、背中に膝を押し付けて拘束しているミクオを見て素直に感想を漏らすと、ミクオは拘束を解かないまま苦笑した。庭の外れにはさっきまでおそわれかけていた女の人が蒼褪めた顔で震えている。間に合ってよかった。
 聞こえた悲鳴に慌てて駆けだすと、路地裏で襲いかかられている女の人と薄汚れた中年男がいた。問いただして男を捉えようとすると、ナイフで女の人を人質にとって逃げ出して街外れのこの家まで逃げ出したからこっそり後をつけた。捕まえられたのは、私たちが追って来ないと油断して女の人からナイフを退けた拍子に間抜けにもすっ転んだから。
 私は女の人に近寄って上着を肩にかけてあげた。恐怖に苛まれているらしく、酷く身体が震えている。無理もないわよね……地べたに座り込んでいるのがあまりに可哀そうで、それでも他に座らせてあげられそうな場所が見えなくて、どうしようか少し悩んだ。
 視線を下に落としたときだった。


「……え?」


 地面の下に、何かがある。
 黄ばんだ白。何故かどくどくと耳に心臓の音が聞こえた。恐る恐る足で土を払いのける。
 それを見て、一瞬、意識が飛んだ。


「――ミク!」


 気が付いたのは、ミクオの絶叫が聞こえたから。私の目の前にはあの中年男が怯えた目で私を見上げていて、私は男の首に手をかけ押さえつけたまま、ナイフを振り被っていた。


「……あれはなに」
「しっ、知らない、知らない」
「嘘」
「も、もとから、元からあったんだ、家の中、に、だからオレは怖くて庭に」
「嘘!」
「ミク! やめろ!」


 キィン、と、手の中からナイフが飛んだ。同時に男の上から強制的に退かされて目の前に怖い顔をしたミクオが私をまっすぐに見つめていた。
 ミクオの肩越しに、神威さんが見えた。私からナイフを奪ったのはあの人だったのか、と悟る。


「ミク?」
「……だい、じょうぶ」
「うん」


 よかった、とほっとしたように息を吐いている。神威さんは手際よく男を気絶させて、無表情な目を私に向けた。






20160522