序 | ナノ
序
小さな頃、湖で溺れたことがありました。
それはとても透明度の高い綺麗な水で、水底から眺めた水面がきらきらと綺麗だったことを覚えています。不思議なことに、溺れていたというのに苦しかった記憶はちっともありません。いえ、苦しかったから忘れてしまったのでしょうか。
覚えていたのは、眺めた水面と冷たい手のひら、そして呼ばれた、あたしの名前。
――あなたは、だぁれ。
20150816