Mis9 scene1 | ナノ





――scene 1



 あのとき、ルカさんから奇妙な重力を感じた。メイコさんの声で、引き戻されたことにほっとした。だから、仕事だと言われてもむしろ嬉しかったくらいなのに。


「だからって! なんで! こいつとなのよー!」
「まだ言ってる」


 ミクオが大人びた顔で苦笑いをする。何度でも言ってやるわよ。

 メイコさんに指示されたのは、この街の水面下で問題になっている婦女暴行事件の犯人を捕まえること、だった。水面下というのは、被害者の女性の人数が少ないことと、被害が暗がりに引きこまれて身ぐるみをはがされたことに留まっているため、あまり公になっていないかららしい。

『何で私が! 私ただの事務じゃないですか!』
『だって今までの被害者女性の傾向見たら、ミクくらいの子が多いんだもの。リンとレンは仕事で外行ってるし。ていうかリンの場合、挑発的すぎて逆にそういう男は引っ掛からないのよね』
『つまり私に色気が足りず且つチョロそうだと』
『あら、わかってるじゃない』
『メイコさん!』
『大丈夫よ。そのための用心棒だから。ねぇミクオ?』
『ええそれはもう、全力で守ります』
『そもそもそれが問題だと! こいつの女癖の悪さ知ってるでしょう! 私の貞操どうなりますか!』
『あれ、僕ここ来てから他の女の子と会ってないけど』
『信じられるか黙れ』
『ミクもそろそろヒール履いてみたらどう? いざというとき、遠慮なく踏み抜けるし、なんなら潰せる上に貫通よ』
『……なるほど』
『ちょっとミク、納得しないで。怖いんだけど僕』

 そんな会話をしたのが三日前。この街に来たのは三日目。一人で色々歩きまわったけれども、進展なし。
 閑静な住宅街、どちらかと言えばお上品な類の街だ。お店関係は駅前に集結していて、そこは賑やかで対照的。首都からも近いし、官僚とかお偉いさんが住んでいたりするとも聞いた。通りで、大きなお宅が多いこと。自分でもびっくりしたのだけれど、羨ましいとは思わなかった。いつの間にか、SOJの本部で皆とわいわい過ごすことに馴染んでしまっていた。ちょっとくすぐったい気持ち。
 それにしても。私は一人で歩きながら(一応おとりだから、一人なのだ。多分ミクオはその辺にいるはず)、辺りを見回した。なんだか、見覚えがあるような、ないような。この街の名前だって、どこかで聞いたような気がする。実はこの街、本部から近いところだから、何度か来たことはあるのだけれど。それとは別に、だ。
 なんだったかなぁ。私は考えこもうとして、ぎくりと身をすくませた。
 夕焼けが沈んで薄暗い、今の時間。視界はよくなくて、通り過ぎる人の顔も見えない。ただ、さっきからずっと人とすれ違っていないのに、突然、背後から人の気配がして、驚いたのだ。何でミクオは、いないの、心の裡で毒づく。


「こんな時間に、何をしている」
「なに……」


 私は、振り向いた。
 そこにいたのは、


「か、神威、さん?」
「お前……」


 知った顔。
 ざ、と後ろからまた人の気配がしたから、再度振り返った。そこには、妙に険しい顔をしたミクオが私越しに神威さんを見ていた。













20141214