Mis8 scene4 | ナノ





――scene 4



 夜に目が覚めた。それは、ドアを叩かれた所為だ。私は目を擦りながら起き上がり、月明かりに時計をかざす。まだ、午前二時。メイコさんかしら。こないだ突然起こされて避難訓練とかやらされたけど、完全に酔っ払いのたわごとだったわ。そんなことを思い出す。でも、メイコさんならこんなに静かなわけないと思った。誰だろう。カーディガンを羽織って、ドアを開けた。


「って、」


 誰もいない。悪戯? いや、違う。
 たた、と軽い足音が、曲がり角へ消える。あ。あの人。私は慌てて後を追う。気分はアリス。追いかけた兎の足音。足元に広がる、落とし穴。
 勿論、落とし穴なんてないのだけれど。
 階段の踊り場に、彼女はいた。


「グミ、さん」
「グミちゃんでいいよー」


 小窓の下、壁に寄り掛かるように彼女は微笑んでいた。迷彩柄の繋ぎを着ている。昼間の騒がしさが嘘のように、「やあ」と片手を上げる。


「さっきノックしたの、グミちゃん?」
「そう。起きてくれてありがとね」
「何か用だった?」
「うん。お別れくらい、言っとこうと思ってさ」
「お別れ?もう、仕事に行くの?」


 こんな時間に?


「ううん。わたしの仕事は今日で終わったからね。こんなところとはおさらばさ」
「え……?」


 今日で終わり?ってことは、ここを辞めるってこと……?寝起きの所為か、処理が追い付かなくて私は瞬きを繰り返す。グミちゃんは小窓から外を覗いた。月明かりに照らされて、嘘みたいに、綺麗だと思う。


「ああそうだ、昼間のあれね、ついでに、ミクちゃんだけには言っとこうかな」
「昼間って?」
「リンとレンの。あれね、嘘なんだ」
「嘘?」


 リンとレンが、姉弟っていう話?聞くと、グミちゃんはにこりと笑う。


「二人に血の繋がりはありません」
「なんでそんなこと」
「うん?単なる罪悪感かな。ほら、今わの際で悪事を洗いざらいぶちまける心境?」
「不謹慎よ。ていうか私が聞きたいのはそっちじゃなくて」
「あっはは。グミちゃんはね、嘘吐きなんだよ。だから新聞の一ページ使ってあんな悪ふざけしてるでしょ?」
「……メイコさんは」
「知ってるよ?でも、他の人にはナイショ」
「どうして私に、教えてくれたの?」
「だって昼間、あんなに居た堪れない顔してるんだもん。可哀そうになっちゃった」
「……悪かったわね」


 そういうの、苦手な自覚はあるけれど、そんなに私わかりやすかったかしら。


「でも、それならリンとレンだって同意してたじゃない」
「あの人たちは面白ければなんだって良いんだよぅ。本当はね、あの人たちは姉弟じゃなくて婚約者なの」
「それも嘘?」
「うん。ほんとは夫婦だよ」
「……もう、グミちゃんの話信じられないよ」
「あーあ、狼少女だねグミちゃんってば」


 面と向かって信じられないと言われたにも関わらず、グミちゃんは呆気なく笑っている。拍子抜けするほど機嫌が好さそうに見える。


「いいよ、信じなくて」
「グミちゃん、ここからいなくなるの?」
「うん。ここの人たちの中ではね、グミちゃんだけ異色なんだ。学生だった頃ね、いろんな国見て回りたいなーって思ってたのね。でも貧乏だったから諦めてたの。そんなときにメイコと会って、出資してあげるから、その代わりに、って、情報収集のために雇われたのさ。でも、もう情報収集の人手はいらなさそうだし、グミちゃんも良い感じで世界見させてもらったからね」
「メイコさんに見こまれたんだ」
「嘘かも知れないよ。信じなくても良いんだよ?」
「嘘でもいいよ、別に。――嘘で良いから、教えて欲しいことがあるの」
「なぁに」
「グミちゃん、新入りの身辺調査請け負ってたんでしょ」


 それが、知りたかった。ずっと聞きたかったけれど、他に誰かがいる状態では、どうしてか、聞きづらかった。
 私は一歩だけ、距離を詰める。


「私の過去は、どうだった?」


 聞きたかった。私の持つ記憶は、数年前からあやふやだ。多分、私が十二、三歳の頃から。気が付いたらSOJに入る前にいたあの町で、その日暮らしの生活をしていた。暮らすことに精一杯で、記憶があやふやだなんてこと、どうだってよかったのだ。
 けれど、ここに来てから気になり始めてしまった。何より、あいつが――ミクオが。時折、不思議な目で私を見る。その理由を、私は知りたい。


「きみのことは、きみが一番知ってるんじゃない?」
「私は、覚えてないの」
「そう」


 グミちゃんは、目を細めるようにして私を見た。何かわかったように、頷いた。


「なら、思い出さなくて良いことなんだと思うよ」
「でも、私は知りたい」
「自分で思い出さなきゃ。きみ自身のことでしょ」


 グミちゃんはそうして、私を突き放す。思い出さなくて良いことは、思い出さなくて良い。それは、いつか、聞いた。


「でもね……老婆心で忠告させてもらうけど、思い出さない方が良いと思うね、わたしは。今を生きる方が、ずっと大変だ」


 すっと、階段を降りて行く。私は止めない。止められない。


「じゃあね、ミクちゃん。本当なら、きみもここから早く出たほうが良いっていうところなんだろうけど」


 それは。
 ハクさんにも、言われた。


「でも、きみは無理かな」


 それは、言われなかった。
 どういう意味なのか、知りたかった。でも、私は追いかけられず、彼女が消えて行くのを黙って見守るしか、出来なかった。




【MISSION 8】
――No Mission.


















20141207



当初の予定では、もうちょっとミクさん素直になってミクオとばんばんフラグ立ててるはずだったんですけど、どんどん辛辣になっていくという謎の現象。ミクオもどうしてこうシモいキャラになっていくんだ。でもシモいミクオも好きです。ミクオ好きすぎてやばいです。ちょっと待って発狂しそう。ミクオ好きすぎて。ミクオ眺めながらにやにやしたい。個人的に一番王子様キャラなので、王子様のかっこさせたい。(脳内でさせてみる)やばい似合う。超似合う。で、跪いてミクの手にちゅっとさせてミクが盛大に照れればいい。なにこれ超絵になる。可愛い。死ぬわ。どうしよう。誰かそんなクオミクください。出来ればミクはツインテじゃなくて下ろしててほしいそんでクオの王子衣装とはギャップでシンプルすぎるワンピースでいい。発狂しそう。でも本命はレンリンという屈折した心境です。レンに同じことさせてもなんか笑えてしまう。
次回はこんなミクとミクオで楽しくフラグを建設するお話にしたいと思います。ちなみにレンリンはお休み予定ですのでご容赦ください。
今回はノーミッション回でした。