Mis7 scene6 | ナノ





――scene 6



 銀の髪に、血の色を溶かしたみたいな目の色、そして真っ白な肌。華奢な肢体は、本当に今にも折れてしまいそうで、守ってあげたくなる。
 今回の任務での救出対象である彼女は、ハク、という名前らしい。メイコさんの旧知で、不穏なうわさを聞いたためメイコさんが独自で動いたのだとか。まぁ、実際に救出したのはリンだけれど。
 彼女の手には、僅かに鎖の跡。長いドレスで隠されている足首にも同じものがあるのだろう。あの伯爵は、彼女を見染めてそのまま連れ去り、自分の城に幽閉したのだと言うから腹が立つ。
 眉を潜めてその手首を眺めていると、男の手がそれを攫う。


「もう痛みはひいた?」
「え、ええ、お陰さまで……あの、」
「酷い話だね、君みたいな綺麗な女の子を縛りつけるなんてさ。女の子は鎖で縛りつけるんじゃなくて、愛でつなぎとめるものだろう? 鎖なんて、自分に自信のない馬鹿な男が使う愚かな手段だよ」
「あの、手、」
「ああごめん、やっぱりまだ痛む……」
「この馬鹿ミクオ」


 紳士然とした眼差しでハクさんに詰め寄るミクオの頭に、私は拳骨を落とした。詰め寄る手法は完全にナンパ男なのに、目がそれっぽくないから騙される女の子が大勢何だろうと最近理解。
 痛いなぁと大して痛くなさそうに頭を摩りながら、ミクオはハクさんの手を放す。


「何、やきもち?」
「はぁー」
「あからさまな溜息傷付くなー」
「良いからあっち行って手伝ってきなさいよ」
「嫌だからこっち来たのに」


 ぶつぶつとブーイングを言うミクオをしっしと追い払うと、やっと離れて行ってくれた。あっち、というのは、メイコさんによるメイコさんのためのメイコさん主宰の宴会である。
 ここは食堂で、SOJメンバー+ハクさんで、ハクさん奪還おめでとうの打ち上げをしているのだ。わたしとハクさんがいるのは隅っこのソファーで、テーブルの上でボトル一気飲みしているメイコさんやら煽りたているリンとレンやら既にテーブルの下で熟睡しているカイトさんやら実験器具を持ち込んでお酒と何かを精製しているルカさんやらを眺めている。正直危険すぎて近寄れない。
 ミクオが近付いた途端に、リンとレンがミクオを両側からがっしりと捕捉してメイコさんの前に引き摺り出した。……哀れ。
 呆れた目でそれらを眺めていると、隣でハクさんがくすくすと笑った。


「どうしたの?」
「こんなに面白いの、久しぶりなんです。ずっと一人だったから」
「……そうよね、あの男、貴方をあんな薄暗いところに閉じ込めておくなんて」
「あ、薄暗いのはむしろわたしのためだったんですよ。わたしこの通り、アルビノなので」


 ああ、そっか。日の光に弱いんだったかしら。
 ハクさんは、けれどあの男に閉じ込められる前にも、あまり人との交流はなかったと言った。何故なら、彼女はシャーマンとしてまつられていたから。


「ただ色素が薄いだけで、そういう呪術的な力があるって思われているところに住んでいたんです。わたしはずっとそうだったから、不思議にも思わなかったけれど、でもメイコさんと知り合って、閉じ込められることがどんなにか理不尽なことに気付いたんです」


 それは、SOJが発足されるよりも前のことで、メイコさんがハクさんの住む村に何かの調査でやってきたらしい。ハクさんは、そうして外の世界を知って、メイコさんが帰った後も外に憧れた。いろいろ努力して、メイコさんにも力を貸してもらいつつ、村の人とも和解して、日光には気を付けなければいけないけれど普通の人と同じように外に出られるようになって。
 そしてあの男に目をつけられてしまったのだ。


「メイコさんに二度も助けていただきました。いくら感謝しても足りません。もちろん、リンさんや貴方にも」
「私なんてただ突っ立ってただけよ。でも、そっか。メイコさん、飲んだくれのイメージ強すぎるけど、いいとこもあるのよね」
「そうですね。でもあのとき私を助けてくれたのは、多分憤っていたからだと思いますけれど……」
「え?」
「だってメイコさん、」


 そこで、ハクさんは何故か目を丸くして私を見た。私もハクさんを見ると、ハクさんは私を見透かすようにじっと見つめている。なんとなく、居心地が悪いと思った。


「……すみません、失言でした」
「え、え、何が?」
「ああ、ええと、」


 ハクさんは何かに慌てていた。でも私にはそれが何かわからなくて、首を傾げる。まあ、こんなに慌ててるんだし聞かなかった振りをしておいた方が良いわね。そう思って別の話題を振ろうとしたとき、


「……ミクさん、失言ついでに、一つだけ」
「な、何?」


 彼女は随分真剣な目をしていた。


「もし……もしも巻き込まれただけなら、早くここから抜けた方が良いです」
「ハクさん?」


 ハクさんは、微笑んでそれきり、お酒の話題を振って来た。私はそんなにアルコールは強くないと答えつつ、戸惑っていた。
 どうしてか、ハクさんの微笑が哀しそうに見えたから。












【Mission 7】花嫁を奪還せよ
――Complete.

























20140928



 シリアスが見え隠れし始めました。そして驚きのレンリン率の低さ!Σ(‐д‐)
 今回はリンの過去をちょっと匂わせるのと、荒れた教会に佇むリンを書きたかったのでした。人数多いとそれだけでてんやわんやですね、結崎の脳内がorz
 次はまた新しい登場人物増やしたいと思います。多分。クオミクもちゃんと書きたいんですが、それは次の次あたりになりそうです。