Mis7 scene1 | ナノ





――scene 1



 速達だった。珍しいことに。


「Gretel……欧州あたりかしらね」


 消印は別のところだけど。
 時折、分厚くなるくらい書類が入った大判の書類が送られてくることがある。送り主はいつも名前だけ、しかもそのときどきによって名前が違う。アルファベットが並んでいるのはまだ読めるけど、稀に記号にしか見えない文字とか、右から読む文字とか、そういう名前も見かけたことがある。メイコさんによれば、調査をしたときにいた場所の女性名を使っているらしい。SOJの調査員だという話だ。
 この封筒が届いたら(この封筒だけじゃなくて、大抵の郵便物がそうだけど)、メイコさんに直接は渡さずにとりあえずメイコさんの棚に入れておく。そうすると時間ができたときに見てくれたり、見てくれなかったりする。見てくれなかったら問答無用で見せることにしている。
 今日も、いつもと同じくしようと棚の前に立った。


「ミク、それいつもの?」
「そうですけど」
「今ちょーだい」
「あら、珍しい」


 後ろから声がかかって、私は振り向いた。メイコさんは書類だらけのデスクの上に足をのっけるという、大層お行儀が悪い格好で別の書類を見ている。こないだ知った、大統領の娘なんていいとこの出身にはとても見えない。
 私はメイコさんに近付いて、封筒を直接手渡した。


「これはあたしが個人的に頼んだことなのよ」
「仕事じゃないなら早いんですね」
「あんたホント最近生意気」
「あだっ、だってメイコさんが真面目に仕事してくれないから私の仕事が溜まってっ」


 この際とばかりに文句を言い連ねようとしたけれど、とっくにメイコさんは聞いてなかった。殴られ損だわ。
 せめて、とこれみよがしに溜息を吐いて(メイコさんに届かないのは承知の上)、メイコさんによって溜められた書類を片付け始めようと思ったら。
 メイコさんの表情が、見る見る険しくなっていくのがわかった。最近わかるようになった表情の変化だけれど、これは、多分、余計な仕事が増えて苛々しているわけじゃない。そういうときのメイコさんは、悪魔のような形相になり、側にいたくないもの。いつの間にかいなくなっていた神威さんは、「ハンニャだな」と言っていたけれど、多分彼の国の悪魔のことだと私は睨んでいる。
 この表情は、それとは違う。何かに憤っている顔だ。


「メイコさん?」
「……リン、こういうの嫌がるんだけどね」
「え?」


 メイコさんが独り言のように呟いて、思わず聞き返した。それに答えが返ってくるとは思っていなかったけれど、意外なことに、メイコさんは私を見た。


「適任はリンしかいないのよね、こういうの」
「あの?」
「ミク、あんたにも行ってもらうから」
「わ、私!?」


 メイコさん、お願いだから自己完結で会話進めないで! ていうか会話でもないわよねこれ。


「ただの事務なのに、最近使われ過ぎじゃないですか私!?」
「あんたは今回、見てるだけでいいから」
「見てるだけって」
「リン……場合によっちゃレンもね、暴走するかもしれないから。あたし、今回ちょっと動けないのよ」


 メイコさんはそう言って、少しだけ微笑んだ。







【MISSION 7】
――start.









20140810