Mis7 scene0 | ナノ
――scene 0
暗い部屋だった。薄暗い部屋。ダンスの練習ができそうなほど広い部屋の中には、品の良い調度が飾り置かれ、床を覆う絨毯は分厚く音を吸いこむ。重厚な扉が二枚あり、うち一枚は寝室に繋がり、もう一枚はこちらからは開けられない、扉だった。
一昔前の貴族が好んだような、古風な部屋は、確かに彼女の好みのものだ。そう、この部屋は彼女に合わせて作られた。窓が最低限しかないのも、彼女の「ため」。その最低限も一枚しかなく、小さな窓は曇りガラスで日の光を遮った。
「……ああ」
彼女は、その窓辺――出窓になっていた――でぼんやりとした光を感じることが、好きだった。いや、自然の光を感じられる場所がそこしかないのだから、好きとは違うかもしれない。そこで物思い、溜息を吐く。けれどここに近付いていることが、館の主人にばれてしまったら怒られてしまうから、そこにいる時間はそう長くはない。
この窓が開いたら、どんなに良いことだろう。彼女はいつも、そう思い、窓に手を添える。動いた拍子に、しゃら、と金属音がした。
「誰か……助けて」
か細い声は、拾われることなく霧散する。霧散、それでいいのだ、もし拾われるとしたらそれは一人しかおらず、また、その人に拾われてしまったら、ただでは済まないのだから。
彼女の胸には、絶望しかなかった。
「あと、七日。七日で、わたしは」
誰か、誰か。静かに伝う涙も、誰に知られるともなく落ちてゆく。
「もう――死んでしまいたいのです」
20140809