Mis5 scene4 | ナノ





──scene 4



「この、ばか!」
「あだっ」
「てっ」


 メイコさんに揃って手刀を落とされた私とミクオは、頭を抱えた。その向こうでは、ソファに座ったリン、レン、カイトさん、神威さんがお菓子を食べながら談笑している。理不尽。


「止めろっつったのよ! またあちこちぼろぼろじゃないの」
「いや、でもほら、メイコさんはリンと神威さんの稽古を止めろって言ってましたよね。ちゃんと止めましたよ。その代わりリンとレンと神威さんの喧嘩が始まっただけです」
「屁理屈言うんじゃないこの馬鹿」
「いたっ」


 さっきよりも強い力で殴られたっぽくて、ミクオの頭から痛そうな音がした。しかもさっきと同じ箇所殴ってくるなんて……さすがメイコさん、ミクオ限定でもっとやれ。
 結局あの三人は、いつものように(といってもその「いつも」は伝え聞きなんだけど)練習場を飛び出して、本部の建物全部を戦場にしやがった。お陰で駄目になった書類が多数、被弾した壁も多数、ナイフの刺さった棚も多数で、酷い在り様だった。途中でテンションの上がったリンが爆弾を投げてしまったのだから、一つの部屋なんて今とても風通しが良い。私たちはそれを止める気も起きず、お菓子を食べながら実況してたけど。私、ここに来てから確実にメンタル面強くなってるわ……。


「大体レンも参戦するなんて……今まで興味なさそうな振りしといて」
「油断させようと思ったんだけどな」
「ふん。あんなもので油断などするか」
「あんたら、それ食べ終わったら掃除だからね」
「えー」
「めんど」
「何を言うお前たち、汚したのなら自分で片付けねば」
「頑張ってねー」
「カイト、お前も手伝え」
「え!? 俺ずっとここにいたんだけど!?」
「妹の不始末くらい兄が面倒を見るものだろう」
「く……!」


 その後、当然のように私たちも手伝わされた。理不尽でしかない。


「何でこうなるの……」
「僕こういう雑用好きだよ。考えなくて済むし」
「お喋りしてないで、手を動かしなさい」
「メイコさん電話鳴ってます! 取って!」
「ちっ、このあたしを使おうなんて良い度胸ね」
「一番近いのあんたじゃない」


 事務室を掃除している傍ら、メイコさんが盛大に舌打ちをしつつ電話を取る。もう、どうしたらこんな狭い部屋で暴れようと思うのかしら。ぶつくさ文句を言いながら穴のあいた書類を整理していると、メイコさんの雰囲気がどんどん悪くなる。電話口の相手は誰だかわからないし、どんな内容かも知れない。メイコさんは余所行きの声で相槌を打っているだけだから。声だけ聞けば笑顔なのに、顔を見れば鬼のよう。怖い。


「ええ、はい。じゃあそういうことで。失礼します。……ミク」


 電話を置いたメイコさんが、私を呼んだ。声音の変わりよう半端ない。


「は、はい?」
「神威呼んで来て頂戴。急いで」
「待って僕も行きたい。ボスと二人にしないで」
「あーらご挨拶ね坊や。可愛がってあげようじゃない」
「すみません僕若い女の子が好きです」
「親父か。って失礼ね!」
「うわっ、ちょ、ギブギブギブ!」


 私は逃げるように事務室を出た。今メイコさんはとても機嫌が悪い。近寄りたくない。
 今居る本部は、五階建ての一見古びたビルだ。中はそうでもなくて、綺麗(だったん)だけど、そこのどこに神威さんがいるんだろう。ちなみに事務室は五階、最上階だ。一階一階降りていって、リンとレンが三階にいるのは見つけた。カイトさんは一人寂しく二階。神威さん、一階か地下かしら。掃除が好きなのか綺麗好きなのか潔癖症なのか、神威さんは特に酷い地下や一階を徹底的に綺麗にしていた。
 階段を降りながらふと窓が見えた。やだ、曇り空。中にいるから天気はあんまり関係ないかもしれないけど、雨が降って湿気が多いと髪がまとまらないから憂鬱。窓を開けて外を覗くと、やっぱり降っていた。


「……あら」


 なんの気はなしに、視線を下ろした。眼下に広がるのは裏通りでいつも人の気配はない。夜になると真っ暗だしね。そこに、ぽいっと何かが投げられた。遠目だけど、紙かしら。くしゃっと丸まっている。どこから投げられたかと見ると、私の真下から。覗きこめば、紫色の髪の長い──


「神威さん?」


 呼びかけると、神威さんは見上げた。少しだけ見開いた目は、やけに真っ黒に見える。宝石みたいで綺麗だわ。真っ黒の宝石。緑色とか、青とか、そういうのが好きだけど。


「お前か」
「今何か落としました?」
「塵だ」
「はぁ。そうですか」
「何か用か」
「メイコさんが呼んでましたよ」
「ほう」
「機嫌悪そうでした」
「また無理を言われたか」


 くっくと神威さんが笑って、今行くと答えた。それきり頭が引っ込んで、階段を上ってくる音が聞こえる。
 私はもう一度だけ、雨に打たれる白い塵を見下ろした。

 掃除に拘りを見せる神威さんが外に塵を捨てるなんて、と思いはしたものの、その塵は翌朝にはなくなっていたから私はすぐに忘れた。思い出したのは、随分、後のこと。











【MISSION 5】師弟の暴走を制止せよ
──complete.










20140712



 やっとお師匠様出せました! 一応SOJの舞台は、脳内設定だと昔の米 国ぽいです(あくまで「ぽい」)が、がっくんは日本出身ということにしております。ということで侍っぽく、と念じて書いていたら思いの外固くなりました。
 どうでも良いんですががくぽって名前使いづらくて神威を採用したんですけど、日本名に半濁音なんて一平とかでもない限り不自然な気がするので。
 更にどうでも良いんですけれども、リンは武闘派の癖してヒールです。あ、悪役のことじゃなくて、靴のことです。華奢なミュールとか好きそう。「だってこっちのほうが可愛いじゃない」とか言って。いざとなれば脱ぐ。メイコさんはピンヒールかスリッパ。ミクちゃんはぺたんこパンプス。
 そして唐突な次回予告↓

鳴り響いた電話にメイコの眉間の皺が深くなる。与えられた突然の任務、リンとレンの意外な(?)特技、そして明かされるメイコの素性とは──?
 次回はちゃんとレンリン要素もあるよ!\(^o^)/

 ……多分。