Mis5 scene3 | ナノ





――scene 3



 だああああん!

 ――と、大きな音がして、反射的にリンと神威はその場から飛び退いた。臨戦態勢そのままに音のした方向を睨めば、そこにあったのは意外な光景。
 大きく開かれた扉。そこに立っているのは、華奢な少女。口元を手の甲で隠して、肩で大きく息をしている。赤い顔で睨んでいるのは、おそらく勢いよく突き飛ばされたせいで扉を破り、尻もちを突いている少年だった。


「この……!」


 一体なんの騒ぎだ、と自分たちのことは棚に上げて、呆れた表情をする師弟を余所に、怒りに震えるミクが、ぐいっと唇を拭ったかと思うとだんっと足を踏みならした。


「最ッッッ低! 女の敵!」
「いたたた……ちょっとした挨拶じゃないか」
「はああああ!? 死ねスケコマシ!」


 髪を振り乱して、紅唇から飛び出るのは聞くに堪えない罵声。どうやら随分と怒り心頭らしく、どんどんと声量があがる。その光景から察したリンが、ふと動いた。尻もちをついたままのミクオを尻目に、ミクの隣に立ち、肩を抱き寄せる。実際の身長はミクよりも低いが、常にヒールを履いているからあまり身長差はなかった。


「ちょっとからかうくらいなら許したけど、やり過ぎはよくないわ」
「リン……!」
「やりすぎって。いつも君とレンがしていることよりは大分子供じみてると思うんだけど」
「ミクがこんなに嫌がってるのよ」


 かちゃり。と、恐ろしいことにリンはにっこりと笑って銃の照準をミクオの額に合わせた。さすがにミクオの笑顔が引き攣った。稽古とはいえ、それに装填された弾丸はゴム弾などではなく実弾だ。


「待てリン。相手は丸腰だぞ」


 そこで間に入り、リンに切っ先を向けたのはそれまで静観していた神威であった。止めに入ったが刀を向けている辺り、相当喧嘩腰な止め方だった。


「あらせんせ。喧嘩しようってわけじゃないのよ。女の敵は女が排除しなくっちゃ」
「全くお前は昔から……無駄な殺生を見過ごすわけにはいかん。たとえこの男が嫌がる婦女子に迫る塵屑だったとしても、だ」
「うわぁ、僕の株すごいさがってるね」


 リンがミクを、神威がミクオを背中に庇い、再度臨戦態勢を取った――そのときを見計らって。
 両者の首に、手が回る。


「そこまで」
「大人しくしててね」


 ミクはリンに後ろから抱きつくような形で両手を拘束し、動くを止める。ミクオは神威の首筋に、先ほど神威がはなったナイフを当てていた。


「な……っ」
「言っとくけど、作戦だからね。僕、ミクに変なことしてないよ」
「よく言うわよ」
「ちょっと止めてよミク、さっきの演技もガチすぎてなんか本当に僕やっちゃったのかと思ったじゃん」
「普段からセクハラまがいのことされてればいくらでも怒れるわ。で、リンと……神威、さん?」


 にっこりと、ミクは笑ったようである。


「貴方達の破壊行為を止めて欲しいというメイコさんからの依頼です。どうします?」


 武器を携えたミクオはともかく、ミクは非力な少女で、ただリンを緩く拘束しているだけだ。振り払おうと思えば、リンは振り払えるはず。
 けれど、先にリンが動いた。溜息を吐いて、手から銃を落とす。


「ミクに背後を取られちゃどうしようもないわね」
「メイコめ。いらんことをする」


 神威が舌打ちをしながら、鞘に刀を納めた。空気が緩む。これで落ち着いて話ができると、思ったのは誰だったか。
 が、そのままでは終わらなかった。


「待ってたぜ!」


 突如として響いた声と同時に、神威とミクオの上から人が降ってくる。咄嗟によけていなければ、ナイフの餌食となっていただろう。排気口から降り立った人影は、すかさずその場から飛び退き流れるような動作で訓練場扉のすぐそばにあったバイクに乗った。


「ちっ、さすがにしぶといな」
「とっくに気づいていたぞ!」
「さすが先生ね!」


 そのまま爆走し始めるバイクの後ろに飛び乗ったリンは、スカートをぎりぎりまで捲り上げて太腿に巻きついていたホルスターから拳銃を取り出すと、火花を散らす。にやりと笑う神威が、ナイフ投げる。
 唖然としていたミクとミクオは、近くに弾丸が被弾して慌てて訓練場の外へ逃げた。


「……無理」
「だな」














20140706