Mis5 scene2 | ナノ





――scene 2



 男は、神威、という名前らしい。この国では珍しい東の国の奇妙な服を身に纏い、なんだか細長い、奇妙に反った剣を振りまわしている。髪も長いし、下に穿いているのはスカートかとも思ったから、一瞬女の人かと思ったのは内緒だ。なんだか怖そうな人だし。


「一体どうすればいいんだろ」
「もっかい声かけてみる?」
「あんたがやるならどうぞ」
「ごめん、前言撤回」


 さっき大声で話しかけてみたら、うるさいとばかりに弾丸とかナイフとかが飛んできて寿命が縮む思いをした。勿論、二人とも当てるつもりはなかったのだろうけど、ギリギリだったから冷汗がしばらく止まらなかった。
 神威さんとリンは、今訓練場で訓練とはとても思えない闘いを演じている。訓練場は地下スペースいっぱいを使った、だだっ広い部屋だ。そこの両端でリンが銃を乱射し、神威さんが驚くべきことに弾丸を斬ったかと思えば、中央で肉薄して剣と銃を火花を散らしながら合わせている。そして次の瞬間にはまた距離をとり、神威さんがナイフを投げてリンがそれを全て撃ち落とす。正直、目で追うだけで精一杯。
 メイコさんによると、この二人は師弟なのだそう。神威さんは剣士で、リンがスナイパー(狙撃しているところなんて見たことないから、ガンマーかと思っていたけど、本業はスナイパーらしい)だから、何の師匠かと首を捻っていたら、戦い方の師匠だとか。
 で、神威さんはいろいろ回っていて本部になかなか帰って来ない代わりに、帰って来てリンと会うと、腕が鈍っていないか試すと言ってこんな試合をするらしい。その試合はひたすら激しくて、訓練場はぼろぼろになり、勢い余った師弟は場所を本部全体に広げ、被害が半端ないことになるそうだ。なんてはた迷惑な。そこまで聞いて呆れた表情をしていた私に、メイコさんは言いつけた。言いつけやがった。

『今日の仕事は、あの馬鹿師弟を止めることよ』

 しかもミクオと一緒とか。もうなんなのよ! メイコさんの中で、私がさっき出した苦情はなかったことになっているようだ。


「あれ、お前ら何やってんの」
「レン」


 振り返ると、レンが大きなバイクを引っ張りながら廊下を歩いていた。ツナギを油だらけにして、満足そうな顔をしているところを見ると調整が上手く行ったのだろう。ここにはその確認に来たってところかしら。
 ちなみに私たちがいるところは、訓練場の大きな扉の前だ。


「今、リンと神威さんが中で」
「チッ、またやってんのかあいつら」


 扉の窓から中を覗いたレンは、大きく舌打ち。
 そのまま元来た道を引き返してしまった。バイクは面倒なのか、置きっぱなしで。


「ちょ、レンこれは!?」
「置いといて。徹夜だったから眠ぃんだよ」


 そんなこと言われたら、あの二人止めるの手伝ってなんて言いづらいじゃない。まぁ頼んでも断られた感あるけど。
 溜息を吐いて、ミクオの方を向こうとした。確かにミクオは嫌な奴で、鬱陶しいことこの上ないけれど、なんともむかつくことに仕事は出来ることがこの七日間で判明してしまったのだ。
 振り向いた先で、私はぎょっとした。
 近い。


「み……っ」
「ねぇ、ミク」


 笑った唇が、大きく見えた。












20140705