Mis5 scene0 | ナノ



――scene 0




男が一人、街角で電話を取っている。


「ああ、わかってる――。いや、そうじゃない。そんなことあるはずがないだろう。上手くやってるさ」


 旅に疲れたボロボロの衣服は、あちこち擦り切れているのにも限らずいまだ布が多い。腰に差すは芸術的に弧を描く長剣、男にして酷く長い髪が、頭の頂点近くから垂れ下がり風に揺れている。
 そんな目立つ格好を、当然のように衆目が掠めていく。が、声をかけるものは皆無。それはそうだろう、いかに気さくな人間が多い国とはいえ、鋭く目の尖る男はどこか危うい雰囲気を身に纏っている。男に触れたら怪我をするのではなく、男そのものが災厄であるかのように。


「しばらく落ちるぞ。……ああ、何度も言わせるな」


 やがて、男の電話が終わり受話器に音を立てて置いた。店の主人に電話を借りた礼を告げるが、主人は一向に出てこなかった。男は構わず店を後にする。雑踏の中を、いともたやすく紛れこんでいった。


「さて、と。麗しの正義は、今どこにあるかな」


 芝居がかった口調の独り言を、拾うものはいなかった。









20140628