Mis4 scene4 | ナノ





――scene 4



 リンを探していて、私は本部の中を走り回っていた。だって、メイコさんに新しく入ったあの男の子を連れてくるように言われたんだもの、なんか、二人では会いづらいから、リンに付き合ってもらおうと思っていた。事務員だから、こんなことではいけないとわかってはいるんだけど。
 練習場にも、部屋にも、食堂にもいない。どこ行ったのかしら。と私は辺りを見回して、休憩室はどうかと思い当たる。早速そっちに向かって、そこのドアが半端に開いていることに気づいた。
 そこから、声が漏れている。


「貴方、ミクのこと知ってるのね」
「まぁね。ミクは僕のこと忘れてるみたいだけど」


 聞こえたのは、リンと、あの男の子の声。自分の名前が出たことに驚いて、思わず動きが止まる。


「大体小さかった頃のことだし、あの頃ミクも大変だったから、覚えてなくても仕方がないとは思ってたよ」
「寂しい? それとも哀しい? 忘れられている気持ち」
「どっちでもないかな。あの子にとって覚えているべきではない記憶だからきっと忘れている。僕はそれを知っているし、思い出して傷付いて欲しくない」
「随分と男前なことを言うじゃない。見習いなさいよ、レン」
「うっせぇ。うわべだけだろうがどうせ」


 あ、レンもいたんだ。


「もしかして、僕嫌われてる?」
「気にしないでよ。この人カジノゲームで貴方に及ばないものだから拗ねちゃって」
「負けてねえよ」
「でもルカが細工しなかったら、負けてたでしょ」
「ルール知らない奴に言われたくねェんだけど」
「ルールは知らないけど、実力はわかるわ。ね、如何様師さん?」
「バレなきゃ如何様じゃないんだよ。だからその呼び名、僕あんまり好きじゃないな」
「ごめんなさいね、仕事依頼にそう載っていたから」


 私はゆっくりと後退りをして、音が聞こえなくなったところで、思い切りダッシュでその場を後にした。あの男の子を連れて行かないといけないのはわかってる、でも、でも。
 廊下の暗がりで、しゃがみ込む。知らない、覚えていない。でもあの子が言っていた、覚えているべきではない記憶って、なんのこと?
 そして私は途方に暮れる。思い当たることが、一つ。

 私には、幼少期の記憶が抜けている。












20140615