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うだるような暑さが、妖精の尻尾の魔導士達を完全に沈没させていた。

それならばギルド備え付けのプールにでも行けばいいと、妖精の尻尾を訪れた一般人の誰もが思うのだが、あまりに暑くて、如何せん動く気が全くしないのだ。
幾らフィオーレ1のギルドといっても、冷房などという気の利いたものは付いていないらしい。
そんな時頼りになるのが冬でも裸のとある造形魔導士なのだが、彼は暑さに人一倍弱いらしい。
ギルドに来て早六時間、彼は一歩も、どころか1センチも動いていない。
朝はまだ気温が低く、歩いては来られたのだが、こうなるともはやギルドに来ている意味がわからない。
はっきり言って家で冷房効かせてろよ、と妖精の尻尾に訪れた一般人の誰もが思う。
そして、見る者を更に暑苦しくさせる存在が、彼の隣を陣取っているのは既に見慣れた光景である。

誰もが突っ伏す暑さの中、服も長袖、汗一つかかず、平然とした顔で(正確には目がハートマークになっている)グレイの顔を見つめているのは、恋する乙女・ジュビアである。
気温がどうなろうと、彼女にとってはその隣に居る美青年が全て。
その目線の熱さと、格好と、二人のあまりの至近距離に、見る者全ての体感温度を上昇させているのは、別に今に始まった事ではない。
ない、けれど。

「ホント……あの二人、色んな意味で暑いわね………」

グレイとジュビアを横目に見ながら、カウンターに突っ伏すのはルーシィ。
目の前で、ミラジェーンが元気に微笑む。

「そうねー」
「……ミラさん、暑くないんですかー?」
「暑いけど、寒いと思えば涼しいわ」

この人に明確な答えを求めたあたしが馬鹿だった。
少し反省して、ルーシィは改めてあの二人に目を遣る。

「あのジュビアのアタックに気付かないグレイもグレイよねー…」
「え?気付いてるわよ」
「はぁ…………………へ?」
「うん。エルザ情報」

そうだったんだー。
うわ、じゃあグレイ、気付きながらあんな流してるんだ。罪な男ねー。
彼氏いない歴=生きてきた年数のルーシィが、若干皮肉と妬みの篭った目線で三度二人を見遣った。

「ミラぁ、冷たいお水頂戴…」
「はーい」

ぐったりとルーシィの隣に座ったのは、レビィだった。

「あ、ルーちゃん…あっついよねー…」

そう言いながら目線はグレイとジュビアを向いているレビィの考える事は、恐らくルーシィと一緒だろう。
ミラジェーンの出した水を一気に飲み干し、レビィはぷはぁと息を吐き出した。

「生き返ったぁぁ……グレイ大丈夫かな………」
「あいつ、毎年あんな感じなの?」
「うーん、今はマシな方かな…いっつもナツ居るから、もっと気温高いし。ギルド来てるだけ良い方だよ」
「うっわ………」

予想以上の惨劇に言葉を詰まらせながら、ルーシィはナツがクエストに行っている事を、何処かの神に向かって感謝した。

「なんかさ、涼しくなる方法とか無いー…?」
「ルーちゃん、だらしないよその格好」

今度は椅子の背もたれに凭れかかってぐったりし出したルーシィを見て、レビィが呆れ気味に呟いた。
すると、ミラジェーンが先程のルーシィの呟きを聞いていたのか、身を乗り出してきた。

「あるわよー」
「えっ、本当ですかミラさーん」

姿勢はそのままで少し期待を孕んだ声を出すルーシィ。
ドリンク効果が切れたらしいレビィも、カウンターに突っ伏しながらも期待を込めた目でミラジェーンを見上げる。

「うん。しかもね、夏らしい方法
「………それ、肝試しじゃないですかぁ……」

簡単に予想出来る答えに、ルーシィが絶望混じりの声を出した。
レビィも、完全に興味を失ったように再びカウンターに頭をごつっとぶつける。
そんな二人を見て、ミラジェーンはにこっと微笑んだ。

「ううん、時間も掛からなくて、それにルーシィの妬みも晴らせる最高の方法よ」
「………………妬み?」

聞き捨てならないとばかりに、がばっと身を起こすルーシィ。
レビィも驚いた様にルーシィを見た。

「え、ルーちゃん、誰か妬んでたの?」
「え、そんな、こと、は…な、…………い」

先程の感情を思い出す。
段々萎んでいくルーシィに首を傾げるレビィとは対照的に、ミラジェーンは終始ニコニコだ。この人、怖い。一体何処まで見透かされているのやら。

「ミラー、その方法って、何なの?」
「えっ…聞いちゃうの、レビィちゃん」

何となく予想のついたルーシィが、暑さも忘れてがたっと立ち上がる。
というかもう、寒気すら感じる。

「だって、気になるもん。ルーちゃんの妬みとか、涼しくなる方法とか」

多分、ルーシィの妬みの方が気になるのだろう。
レビィちゃんも怖い、とルーシィは脳内にインプットした。

「聞きたい?ルーシィの嫉妬」
「待って下さい!ていうか地味に言い方嫌らしいですから!」

思わず叫ぶルーシィに周りの目線が寄せられるが、そんな事もはや全く気にならない。

「うーん……気にはなるけど、涼しくなる方法聞きたいな」
「レビィちゃあん……」

自分の嫌らしい部分の公開を避けたルーシィは、もはやレビィが神々しく感じる。
ふと、あ、と声を上げるレビィ。

「でも、後で教えてね、ミラ」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」

神から一転、小悪魔レベルにまで落ちたレビィを見て、ルーシィが沈没した。

「大丈夫?ルーちゃん」
「大丈夫よー、直ぐ直るって」
「それで、涼しくなる方法って?」
「んー、簡単よ」


「ジュビアの前で、グレイの悪口を言う」

「……………遠慮させて頂きます」

ミラジェーンの大胆さを実感したレビィであった。



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