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あれから、10年が経った。

いや、違う。自分の感覚は10年でも、実際には17年。その間中、ここには誰も訪れていなかった事になる。

自分ひとりを残し、全てが果てた大地。
そこは、何の変哲も無いのどかな草原へと変化を遂げていた。
誰かが何かをした訳ではない。自然が起こした事だ。
17年前、グレイは此処に墓を作った。
ウルとリオンが見守る中で、一人で。
沢山は作れなかったから、想いを込めた墓を一つだけ。
共に生き、笑い合った仲間が居たという証を、残しておきたかったから。
だから、こんな場所に来るのはもう、自分だけだろう。リオンは覚えて無いだろうし。
何時も通り、買ってきた花を墓に手向ける。
此処に来ると、どうしてもずっと此処に居たくなる。家族の傍に、親戚の、親友の、幼馴染みの傍に。
暫く此処にいよう。そう思って、墓の前に腰を下ろした時だった。

「グレーイ!」

聞きなれた声。だが、此処に居る筈の無い声。

思わず立ち上がって背後を振り向き、そこに見慣れた姿を確認する。
一瞬唖然としてから、異常に鼻の効く滅竜魔導士2人を思い出す。
イスバンに近い所まで仕事に来たものだから、久し振りに寄ろうと思って、置き手紙だけして宿を抜けたのだが。
甘かったらしい。

「何で、お前等が此処にいんだよ…」
「それを言うならお前だろう。起きたらお前が居なかったのだからな、焦ったぞ」
「あたしが置き手紙発見したの、結構経ってからだったのよ」

馬鹿だ。
呆れた目を向けながら、グレイは墓の前に座り直す。
それを見たルーシィが、少し顔を曇らせた。

「あ…もしかして、此処って…」

ルーシィに気を使わせてしまった事に気付き、グレイは少し苦笑する。

「いや、気にする事ねーよ」

エルザも感づいたようだ。ウェンディとシャルルは事情を知らない筈だが、聡い彼女達の事だ、恐らく察したのだろう。

それに比べて、あの2人と来たら…。

「んあ?何だ此処!空気が気持ちいいぞ、ハッピー!」
「あいさー!ピクニックに向いてるね!」
「お前等!もう少し空気を読まんか!」
「ぶごっ」
「そっ…そうですよ、ナツさん…察してあげましょ?」
「いや、だから、気遣わなくていいっての」

墓参りに来たというのに、何なんだこの騒々しさは。
だが、こんな墓参りも、のどかな草原の中では悪くない。
それに。
過去に縛りつけられるのではなく、未来に向かって歩き出せている。
そんな姿を見せられる方が、故郷の皆も安心するのではないか。

「ま、いーよ。オレも、そんなに神妙に墓参りなんてガラじゃねーしな」
「えっ、でも…」
「此処、お墓なんだし…」
「こんな空気の気持ちいいとこで、神妙な顔してる方が、空気に毒だと思わねーか?」
「おうおう、そうだぞグレイ!お前にそんな顔似合わねっつのぐふぉっ」
「お前は黙っていろ!」

何時も通りの光景に、思わず口元が緩む。

「さ、用事も終わったし、ギルドに帰ろうぜ」
「あら、アンタ、もういいの?」
「あいつがいる時点で、これ以上居るのは無意味だろ」
「……否定はしないわよ」

笑って立ち上がり、尻に付いた砂を払う。
仲間たちを急かしながら、グレイはもう一度、想いを込めた墓を振り返った。

オレはもう、前を向いて歩けてるから。
安心して、眠っててくれよな。


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