『ねえ、どこか行こうか』



夕焼けに照らされながら隣を歩く名前が問い掛けてきた。もちろん返事はひとつ。何より名前が好きな俺が唐突な誘いに断る理由もない。
うん。そう返事すると、名前は考え込むよう黙った。どこに行こうか考えているのだろう。俺はと言うと、いくら放課後とはいえ二人で出掛けることはないので少し緊張してきている。



『とりあえず、電車に乗ろうか。持ち金で行けるとこまで行こう』
「なかなかハチャメチャなプランやなー。でもそんな名前も」
『好き!もう何回目だよー。しつこいなあ白石も』



これで通算二十四回目。二年から一緒のクラスになって、仲良くなって名前を好きになって。それから何度も名前に好きだと伝えている。付き合ってくれとは毎回言っていないものの、いつもこうして笑ってはぐらかされる。本気にされていないのだろうかと、真面目に告白しても断られてしまった。
でもこうして、名前はいつも仲良くしてくれる。他に好きな男がおるんやろうか。



『切符買ってきた!行こう、白石』



考え事をしていたら、もう名前は切符を購入した後だった。財布を出すもいらないと残し、俺に切符を押し付ける。こういう時、名前にはしつこくお金を渡しても無駄なことくらい俺は知っている。ありがとう。そう伝えて、名前に続き、改札に切符を通した。


三十分と少し、名前と静かに電車に揺られた。電車を降りホームに立つと、一面に広がる海。春の海は人気がなかった。
改札を出ると、気分も上がってきた。柄にもなく海に向かって走り出すと、名前も何も言わずに走り出した。



「結構寒い!」
『ね!風、強いね』



大好きや。適当に買った切符で海に来れたこと。二人並んで電車に座れたこと。そして、名前とここに来れたこと。
ここで待ってて。そう残して名前はどこかに行ってしまった。乾いた風を吸い込むと、虚しさが残る。青い空も少し悲しい気持ちにさせた。

どこかで、この関係に満足している自分がおる。このままじゃあかんのに。一番近い存在やからって、その関係に甘えて。振られるのが怖くて、逃げてる臆病者。



『おまたせ。ラムネ買ってきた。ほい』
「ありがと」



既にビー玉が落ちた瓶を受け取り、今の気分を振り切るように一気にラムネを口に注ぎ込む。名前の瓶もカランと音が鳴った。



『美味しいね』
「うん」
『甘いくせに、潔い味がする』



どうしたら名前の気を引けるだろうと考えている俺をよそに、名前が微笑んだ。名前のこの笑顔がたまらないくらい好きや。名前が笑っていてくれるから、俺はこのままの関係を続けてしまう。



『白石さあ、私に何回も好きだって言ってくれてんじゃん』
「うん、次で二十五回目」
『よくやるよね、ほんと』
「だって俺、名前のこと」

『待って。白石の生まれた日を利用して、私も一回目の告白、していい?』



口の中で暴れ弾ける泡。俺の気持ちも弾けたのか、告白を聞く前に名前を力一杯抱き締めた。





サイダーマジック


(誕生日おめでとう)(私の考えたプラン、気に入ってくれた?)

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