「うわ」
『うげ』



財前とはじめて隣になってからいくつか季節が過ぎた。そしてまたあの時の衝撃が甦る。こうもまた隣になるのか、漫画みたいな展開を少しだけ恨んだ。



『なんでまた財前
「また苗字かいな最悪やわ。一番あかんくじ引いてしもた」
『あ、そう…』



今回こそ私が先に不服を申し立てようと思っていたのに。でも不思議と前ほどの嫌悪感はなかった。それもこれも、財前の表情が柔らかくなった気がしているからだろうか。



「ほんまツイてないわ。苗字の隣やとかほんまないわ」
『ねえ、財前』
「な、なんやねん」
『一ヶ月間よろしく!』



文句ばっかり言いやがって財前の馬鹿野郎。そんな気持ちは心の中に閉じ込めて満面の笑みで返してみる。前みたいにすれ違いたくない。今回は正面から財前と向き合ってみたいと思えたから、私は素直になろう。

おう。小さくそう返事をして財前は机に顔を伏せてしまった。照れたのかな。意外と可愛いじゃん。自然と表情が緩んでく中、伏せていた財前がこっちを向いた。



「ニヤニヤすんなよブス!」



さーっと体温が下がっていくような感じがした。どうなってんだコイツ。歩み寄ってみようかと思っていたのに。やっぱり大嫌いだ!





「よかったね、名前」



親友に話し掛けに行くと、そう呟かれた。なにが?そう問い掛けると席のことだと親友は答えた。
確かに窓際だし、席的な条件はいいとして。何より人間関係がいけない。仲良くしようと思ったけど、やはり一筋縄じゃいかない相手だ。



「財前さ、モテてるよ。結構」
『ふーん?』



キョトンとする私に親友はどうやら頭を抱えた。それがどうしたの、と聞ける雰囲気ではなかった。大きな溜め息をついて、財前が可哀想だとポツリこぼす親友。理由はわかんないけど、なんだか後ろめたさを感じた。

自分の席に戻ると、机に顔を伏せていた財前が顔を上げた。おかえり。そう言われると一瞬どきりとさせられる。つい何も言わず目をそらしてしまった。なんだよ。今日は財前に振り回されてばかりだ。



「楽しそうやな」
『べ、別に。いつも一緒にいる親友だし。財前だっているでしょ』
「俺?おらんけど。友だち」



サラッとなんて悲しいことを。私が同情させられやすい性格なんだとは知らずに。軽い冗談なんだって、財前も別に寂しがって言ってるんじゃないんだって、わかってるのに。くそ、何故だかわかんないけど悔しい。財前と友だちだと思っているのは、私だけなのか。感情が高まっていくのが、怖いくらいにわかった。



『私!私は財前と友だち、だから!』



教室中の視線を一瞬にして集めた。ポカーンとする子、オーッと笑う子。反応はそれぞれ。だけどそんなの構わない。歩み寄ろうって一度は決めたのだ。何を言われようが、私は。



『だからさ、そんな悲しいこと言わないでよ…』



視界が曇ってくる。私だけなのかな、財前と仲良くしたいと思っているのは。声にさえならない思いが涙に変わろうとしているのか。どうして涙が流れたのか、私にもわからなかった。私にもわからないくらいだ、財前ももっとわからないだろう。
気持ち悪がってるかもしれない、ひょっとしたら鼻で笑われてるかもしれない。



「苗字のアホ」
『…』
「友だちなんかじゃ終わらせへんからな。一ヶ月間覚悟しとけ」



そう言って財前は教室を出ていった。正直なところ、意味はわからない。ドキドキの正体も、この訳わかんない気持ちも。でもその時の財前は、どこか笑っていたような。なにかを期待してもいいような、そんな気がした。



はじまりの音色


(いつ気付いてくれんねん、あの鈍感女)


羽澄さんお誕生日おめでとう!

back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -