本日は楽しい楽しい金曜日。三十分ほど残業して、今は足取り軽やかに帰路についているところ。嫌いな残業だって、金曜日の夕方なら許してしまうのはやはり明日が休みだからだろうか。
スーパーでおつまみを買って、鼻唄を歌いながら歩く至福のひととき。悠々と過ごせる貴重な時間だ。



『蔵ちゃん!』



あの後ろ姿。絶対に蔵ちゃんだ。近所に住んでいる二つ年下の男の子。と言ってももう二人とも成人して社会人になっている。幼馴染みなんて言葉は似合わなくなっているかもしれない。



「名前ちゃん!」
『お疲れー』
「何か久しぶりな感じするなあ。会えて嬉しいわー」



無邪気な蔵ちゃんの笑顔に胸がキュンキュンしてしまう。もう、そんな笑顔は反則だよ。確信犯なのか、それとも無意識なのか。



「何買ったん?」
『おつまみですよ』
「え?それ持ってどこ行くん?」



ビニール袋からおつまみを取り出して蔵ちゃんに見せると彼の表情が笑顔から慌てた表情に変わる。忙しい子だなと思いつつ、どうしたのか聞いてみる。すると、もごもごした口調で蔵ちゃんは口を開いた。



「そ、それ持って、どこ行くんかな。なんて…」
『ん?』
「男の人の家、とか…」
『どうでしょう』



いじわる心が騒いで、つい苛めてしまう。私の言葉を丸々信じたのか、表情がどんどん暗くなっていく。可哀想なので、嘘だよとだけ伝えると、ホッとしたような表情を浮かべ冗談キツいわと突っ込みを入れられてしまった。



『一人飲みだよ。よかったら蔵ちゃんも一緒にどうですか?』



トントン拍子で一緒に飲むことが決まった。蔵ちゃんと一緒に飲むの初めてな気がする。蔵ちゃんはお酒強いのかな、アルコール入るといつもより男っぽくなっちゃったりするのかな。妄想が止まらなくて、私までニヤニヤしてしまう。



「名前ちゃんは何飲むん?好きなんあったりするん?」
『私はビールオンリーですよ』
「おお…!」
『蔵ちゃんは?飲めるほう?』
「俺は…まあまあかなあ…」



昨晩六本入りを二つ買っておいて正解だった。スーパーの特売ありがとう!これは私たちの距離が近付くのも確実だ。何だか計算高い女になってしまってるけど、これも仕方ない。年上から、それに今更。溢れそうになっている蔵ちゃんへの想いを伝えることも難しい。それにも、アルコールの力を借りるしか。社会人、成人万々歳。










「名前…ちゃん…」
『あの…蔵ノ介さん』
「俺…んん…」



テーブルに顔を伏せ、何やらもごもご喋っているが理解できない言葉だった。私の手には既に三本目のビール缶。蔵ちゃんの左手には、まだ少し中に残っているであろう一本目のビール缶。あれ、回るの早くないっすか。飲みはじめてまだ一時間もたってない。勿論大した話もできてない。



『蔵ちゃん』
「ん…」



テーブルに伏せる彼の肩を揺らしてみるも、起きる気配はない。あれ、この人もしかしてアルコール弱い?下古なのか。これは予想外だ。今日こそ好きだって言ってもらおうと思ってたのに。ああ、作戦が。



『いつ、好きだよって、言ってくれるの…』



貴方の気持ちなんてとっくに気付いてるんだからね。馬鹿。早く言ってくれないと、気持ち移りしちゃうんだから。
やけっぱちになったのか、その日は一人で六本も飲んでしまった。これも飲み明かしと言えるのか。好きな人が寝息を立てている隣で、虚しいなあ。



アルコールにご用心


(強いねんなあ、名前ちゃん…)(蔵ちゃんが弱すぎるんだよ、バカ!)

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