早く大人になりたい。そう思っていた学生時代も駆け足で過ぎ、気が付けば成人してしまっていた。堂々とお酒も飲めるし、堂々と煙草も吸える。私の場合、未だに後者とは縁がないのが唯一の救いかもしれない。

最近は嫌なことがあるとアルコールに頼ってしまう。彼が学生だからと、少し前まではアルコールはあまり摂取しないようにしていたのに、一度はまるとなかなか抜け出せない。
自分で言うのもなんだけど、彼の前では大人でいられていると思う。嫉妬もあまりしない方だし、ムキになることも少なくなった。でも、最近は時々こうしてヤケ酒みたいなことをしてしまうようになってしまった。



『蔵ノ介くんのばーか…』



週末の夜空は星がきれいだった。空を眺めながら帰路につくのは、酔っている私には難しいことだった。私って一体なんなんだろう。仕事しか能がないように感じてしまい、自分の無力さを実感してしまう。きっと私は、蔵ノ介くんが思ってくれてるような大人じゃない。そんなことを考えていると、いつも涙が零れそうになる。



「名前ちゃん、おかえり」



フラフラ歩いていると前方から私の脳内の半分を占めているであろう蔵ノ介くんが歩いてきていた。ふわふわしていて妙に機嫌が良い。アルコールが入っているところに蔵ノ介くんと会いたくないと思っていたはずなのに、いざ酔ってしまうとどうでもよくなってしまう。



『あ、蔵ノ介くんだー。たらいまー』
「名前ちゃんの部屋行っても帰ってへんみたいやったから駅まで迎えに行くてメールしてんけど…」
『見てないやー、ごめーん』



えらい酔ってるなあ。蔵ノ介くんはそう笑った。少し良心が咎めた気がしたけど、アルコールのせいかすぐに気にならなくなった。まさか今日会えるなんて。嬉しくてつい表情が緩んでしまう。



「大丈夫?真っ直ぐ歩こか」
『だーいじょぶだよー。酔ってない酔ってない』
「珍しいなあ。名前ちゃんがここまで酔うなんて」



蔵ノ介くんの珍しいという一言で胸が締め付けられた。イメージを壊してしまったかな。愛想尽かされちゃったかな。切なさがどんどん込み上げてくる。



『あたしだって、やってられなくなるんだよ…』
「…え?」
『大人でいるのも大変なんだから!』



酔っ払いの八つ当たりだとわかっていながらも、涙が溢れた。私って酒癖悪いなあ。未成年の前で情けない。嫌われたくなくて、好かれたい一心でこれまで蔵ノ介くんを愛してきたのに。こんなことで全て無駄になってしまうなんて。



『蔵ノ介くんは、まだまだ若いから、わかんないよっ…』
「名前ちゃん」



ふわりと蔵ノ介くんの匂いに包まれる。お酒くさいかもしれないのに、蔵ノ介くんも変わってる。そもそもこんな年上の私を選ぶ地点で変わってるじゃないか。変だ。今の私も、蔵ノ介くんも。



『お酒、くさいでしょ』
「ちょっと」
『幻滅した?』



蔵ノ介くんの腕の力が強くなる。本当、この人のこと好きだなあ。こんなに安心させてもらえるなんて、どっちが年上かわからないくらいだ。無駄に歳を重ねているだけで、中身はガキ。格好悪い自分がまた嫌になる。



「好きやで、名前ちゃん」
『あり、がと…』
「俺かて、早く大人になりたい。ちょっとでも名前ちゃんに近付きたい」



目を閉じると更にふわふわした感覚に支配される。とっても嬉しくなるようなことを言われてる感じがするのに。酔っているせいで入ってこない。なんて勿体ない。駄目だ、意識が。

「ほな、帰ろか」



足の力が抜ける。蔵ノ介くんにおぶられて少しすると意識を失った。彼の背中はおっきくて暖かかった。たまには息抜きも必要だと、いつか蔵ノ介くんに言われたことがある。だから、たまには甘えてみてもいいのかもしれない。


酔いがさめたら


(貴方に大好きだと伝えてみよう)

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