降りだした雨。逃げ出した後。
あの時の雨と似すぎていて、消したはずの記憶が甦る。雨に滲む思い出たち。今でもふと振り向けば、あの人がいる気がしてしまう。



『赤也…』
「名前、大丈夫かよ。お前、まだ」
『平気。反射的に飛び出しちゃった』
「教室から飛び出すって、普通じゃねーだろ。休み時間だったから誰も見てなかったものの」



振り返った先には、あの人ではなく赤也がいた。私の幼馴染みで、私の駄目なところも認めてくれる唯一の人。教室から飛び出して雨の街を駆け抜けてく私を追い掛けてくれる、優しい人。



「やっぱり」
『泣いてないよ。あの人と別れて、やっとひとりになって。やっと自由になれた』
「そんな寂しい自由、あるかよ」



ふわりと雨の匂いに包まれる。濡れた赤也の体の中は、不思議と暖かかった。赤也の体が少し震えてる。傘も指さずに雨の中、どうして追い掛けて来てくれたんだろう。そんなことさえ、今にならなきゃ気付けない。



『どんなときだって、赤也は優しいね』
「名前。俺は…」
『この雨が、あの人との記憶を流してくれたら』



意地を張って、別れを切り出したのは私。あっけなく終わったあの人との恋。忘れたいのに。こんなにも、忘れたいのに。こんなときでも、私は素直になれない。赤也の気持ちを知ってて。私は残酷だ。



『…なーんて。もう忘れたよ。あの人の鼓動も、温もりも』
「じゃあ、なんで」
『大丈夫だから』

「なんで…そんな悲しそうな顔してるんだよ」



赤也の腕に力がこもる。もっと素直に甘えられたら、よかったのかもしれない。だったらこんな悲しくて切ない思い、赤也に知られずにすんだかもしれないのに。


remember rain


(今もこんなに切ないのは)(きっと、雨のせい)


いとこへ。お祝いにふさわしくない内容、申し訳ない。

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