世の中は不公平だ。何年ぶりだろうか、そんなことを思ったのは。
出会いの数だけ別れがある。わかってはいるけど、私の場合は別れが早すぎる。



「苗字っ!」



モヤモヤした気持ちで帰り道を歩いていると、遠くからクラスメイトが私を呼ぶ声がした。キョロキョロしているうちに走る音は近付いてきては、あっという間に隣に追い付かれていた。



『財前くん』
「転校って…ほんまなん」
『ああ…。それより部活はどうしたの?』



父親の転勤が多くて、小さい頃から転校を繰り返してる私には慣れっこなはずなのに。今回の転校には苛立ちを覚えた。そのせいか、転校が決まってからもギリギリまでみんなには知らせないでと我が儘を言って通した。そんなことしたの、初めてだった。理由はわかってる。知りたくない理由。認めたくない、現実。



「どこまでマイペースやねん…。それにしても急すぎやろ」
『転校のこと?私んち、こんなもんなんだよ』
「せやかて、今日言って今日さよならなんて」



財前くんの言う通りだ。自分でも初めてだった。転校を告げて、気を遣われるのが嫌だった。最後まで、いつもと変わらず接して欲しかったから。特に、財前くんには。

転入してきた私に、財前くんは無関心だった。どこでもそんな奴はいると、私だって慣れている。それこそ最初は気になんてならなかったんだ。でも、無愛想な中にある彼の優しさに気が付いてしまってからは、財前くんの優しさに甘えてばかりの私がいた。
仲良くなってもすぐ転校してしまう。そんなことも忘れて、私と財前くんはどんどん仲良くなっていった。



「そんなん…」
『ごめんね。いっぱい優しくしてくれて、嬉しかったよ。ありがとう』
「そうゆうことやなくてさ」



ふいに消えていくこんな時間も、思い出と呼べる日が来るのだろうか。別れなんて慣れているのに、どうしてこんなにも涙が溢れるんだろう。



「…泣きたいんは俺のほうやし」
『こ、こんなつもりじゃ…』
「でも確かに、辛いんは苗字のほうやろな。せっかく笑えるようになったのに」



驚いた。まさか財前くんにそんなこと言われるとは。一線を越えない関係を築くのが私の教訓だった。だけどこの地、大阪では開くことのない心を開いてしまい、毎日を心から楽しんでいた。だから別れるとき、こんなにも辛い思いをするんだ。だから、涙が止まらないんだ。



「九州やんな、引っ越すのん」
『…うん。遠いよ、すごく』
「今は新幹線も開通したしすぐやん。それにさ…その」



珍しく顔を赤らめた財前くん。ポケットから綺麗に折られたメモを取りだし、おもむろに私に差し出した。なんだろう。開いてみると、そこにはメールアドレスと電話番号が書かれていた。こんなことまでして貰ったのも初めてで、胸がぎゅっと締め付けられた。



「…今は携帯っちゅーもんがあるやん」
『こんなの私によこしたら、鬱陶しいくらい連絡しちゃうよ』
「ええよ。俺、結構携帯触ってるし」
『答えになってないよ…』



思わず笑ってしまった。それを見たのか、財前くんも優しく微笑んでくれた。やっぱり優しいな。財前くんと出会えてよかったと素直に思える。欲を言うなら、もっと傍にいたかった。傍で、笑っていたかった。


「それから…俺、苗字のこと」
『ん?』
「…なんもない」



次会ったときに話すわ。そう言って頭を撫でてくれた。
前向きに旅立てることがこんなにも気持ちいいことだなんて知らなかった。自分の足でもう一度、振り返らずに前を見て新しい土地でも生きてみよう。次に財前くんに会ったとき、笑っていられるように。
だから、今くらい泣いてたっていいよね。


暮れゆく日に


(旅立ちは、涙の味がした)

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -