──がちゃ
軽い音をたててドアが開くと、真っ暗だった部屋に光が道をつくる。
「さすがに暗い…」
ぱちんとスイッチを押して部屋の電気をつけた小泉は、目の前にそびえる本棚に足を進める。
「っと、確かあれはここに…」
ぶつぶつと呟きながら、本のラベルを指でなぞる。
「あぁ、これです」
目的のものを見つけたらしい小泉はその中から一冊の本をスッと抜き出した。


「ありましたよ藤田さ──ん?」
抜き出した本を手に持って元いた部屋に戻ると、そこには壁に寄りかかって寝息をたてる藤田の姿。
「おやおや、たった数十秒で眠りに落ちてしまうとは…」
本をテーブルに置き、小泉はなるべく足音をたてないように藤田に歩み寄る。
「……っ!?」
そして壁に手をつき、下から口づけた。
「んっ、こいず…っ」
抵抗する藤田を押さえつけ、逃げる舌を捕まえて自らのと擦り合わせる。くちゅ、チュクとわざと大きな音をたてれば、藤田の吐息に甘さが混じり始める。
「っ、!?」
藤田の体から力が抜け始めたのを確認した小泉は、するりと下腹部へ手を滑らせた。
その瞬間、強烈な蹴りが小泉を襲う。
「おっ、と…いきなり鳩尾にキックとは、少々足癖が悪いのではないですか、藤田サン?」
しかし小泉はそれをするりとかわし、肩をすくめると、やれやれとため息をつく。
「寝込みを襲うようなやつに言われる筋合いはない」
ばさりと斬り捨てると、藤田は乱れる息を整え、口許の唾液を制服の袖で拭う。
「これは失礼、あまりにも可愛らしい寝顔だったので、つい」
「ふざけているのか」
「ふざけてなどいませんよ!愛する恋人の寝顔を可愛いと思わない男がどこに──」
「黙れ」
カチャ…と小泉の首元にサーベルが添えられる。
そのキラリと光る太刀筋を一瞥した小泉が、大袈裟にため息をついた。
「やれやれ…全く、愛情表現が下手な方だ」
「斬られたいのか」
「まさか」
とんでもない、と答えると、小泉は口元にニヤリと笑みを浮かべる。
「ですが、仮にも警察官である貴方が外国人の私を斬ることが出来ると?」
「……」
小泉を冷たく睨み、藤田がサーベルを下げる。
「意地悪な聞き方をしてすみません」
「そうだな」
「冷たいお返事ですね」
「お前が本当にそう思っているなら温かく返してやっても良いが…」
藤田がふっと笑う。
「そういうわけではないだろう?」
「おや、バレていましたか」
少しも悪びれていない様子で、小泉も笑った。


「資料は、これか」
テーブルの上に置かれていた本を手に取る。
「ええ」
先ほど小泉が本棚から取り出したのは、物の怪に関する知識が書かれた本だった。機密事項ということで使用方法についてはかたく口を閉じていたが、おそらく事件の捜査に使用するのだろう。
「本当にそれでよかったのですか?もっと詳しいことが書かれた本なら他にたくさんありますが…」
「いや、これでいい」
ページをぺらぺらとめくり、中を軽く確認した藤田が、パタンと本を閉じて、そう言う。
「こんな時間に、邪魔をしたな」
「いえいえ、私もこれから大学に戻らなくてはなりませんから」
「、これからか?」
にこりと笑って返す小泉に、藤田が驚いた風に言う。
「ええ、大体いつもこの時間は大学にいますからね」
「…そうか」
「あ、今、いつも暇そうにしている小泉なのに意外だな、とか思ったでしょう!」
驚きの余韻を残してそう言った藤田を、まるで小さな子供が大人の悪事を見つけた──現代で例えるならば親の自動車運転中の飲酒を「あーいけないんだー!!」と大きな声で咎めるときのように、ビシッと指差す。
「私だって毎日恋人と仲睦まじくイチャイチャしているわけでは…」
「その恋人とは誰のことだ」
「おや、藤田サンに決まっているではありませんか!もしや、もう日頃のお仕事の疲れが出ていらっしゃるので?」
「……」
ペラペラと喋り続ける小泉に藤田が大きなため息をつく。
「おや、もうお帰りですか?」
黙ってドアへ向かっていく背中に小泉が声をかけると、
「仕事があるからな」
背を向けたまま藤田が答えた。
その声に少しだけ滲んだ疲労の色に、小泉が眉をひそめる。
「…藤田サン」
急に真剣になった声に藤田がなんだと振り返る。
「一つしかない体です。無理をしてはいけませんよ」
小泉が真面目な顔でそう言うと、藤田は間が抜けたようにぱちぱちと瞬きをする。
そして、やっとその言葉が自分の体調を気遣ってのことだと気づくと、ふっと笑った。
「心配するな。自己管理は出来ているつもりだ」
「ですが──」
「さっきはつい眠ってしまっただけだ。普段から寝不足なわけではない」
「…なら、しょうがありませんが…」
穏やかに言う藤田に、小泉が渋々の体で頷く。
「なにかあれば、この部屋に休みに来てくださいね」
「あぁ」
そう言うと、藤田は先ほどの本を持ち、ドアに手をかける。
「じゃあな」
「はい」
パタン、と静かな音をたててドアが閉じられた。























藤田が倒れたと知らせがあったのは、それから2日後のことであった。












----------------------------------------------------------------------------
大変遅くなりました…!!
888番キリリク、れんさんより「藤田さん受けの話」でした。

こんな終わり方ですみません、続きはしないです((






← back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -