6. 今、思い出しました。
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突き出された一冊の本。タイトルなんてそれはそれはもう、ここ最近ずっと目にしていて見飽きたほどだ。
見せたいものがある、と言って夕方頃やって来た未乃さんの妹、葉乃さん。いつものように戸を開けて出迎えれば早々に私たち二人にとある本を突き出してきたのだった。
本物を見るのは初めてだが、インターネットの画像では何度か目にしているからか、初めましてな感じはあまりない。
「ていうか、何で1巻じゃないの?」
未乃さんの言うとおり、なぜか手にしているのは4巻。聞けばこれしか買ってないという。
そんな最初の1巻から3巻まで売り切れでした、なんてことはあるのだろうか?確か調べた限りではこの話は既に完結しており、全37巻にも上っていたはずである。
「だってジャーさん出てくるのこの巻からなんだもん」
「へぇ」
「わざわざ探してきてくださったんですか」
「うん」
「ありがとうございます」
私はかれこれ2ヶ月はここに居候している。
つい先日には異世界……本の世界からやって来たことが判明していた。まぁ正直実感はないが、情報と照らし合わせればそれ以外に納得のしようがないのも事実。
情報を目にしても記憶が戻らないとなれば実際に読んでみてはどうだ、ということなんだろう。
早速私たちはその本を手にする。中はイラストで構成されており、漫画と呼ばれる類のもの。世の中にはたくさんの漫画があるらしく、好きな人も多いよう。彼女ら姉妹も例外ではないそうだが今回の漫画は知らなかったらしい。
「他のも古本屋で立ち読みしてきたけど、結構面白かった」
「表紙の絵も綺麗だね」
「この人達は……私の仲間、なんですね」
読み終わって表紙を検める。そこにはマスルールと主人であるシンドバッドと呼ばれる二人の男が描かれており、マスルールは私と同じシンドバッド王に仕える部下のようだった。
なんだか、懐かしい思いがする。でもやはり記憶としては何も蘇らない。
「ね、意外と面白くない!?この漫画!」
葉乃さんは先程から私にずっとそう言っている。今は未乃さんが読んでいるが、見たところハマリ込んでいるらしい。真剣な表情をして、、時折可笑しそうに口元を緩める。
「……決めました。」
パタン、と閉じられた本。思わずそちらを見てから視線を上げればニコリと向けられる綺麗な笑み。
「ジャーファルさん」
「は、はい」
「この本買いましょう、全シリーズ」
「……は?」
「そして読破するのです!」
ひょっとしたらそれで記憶が戻るのかもしれません!、なんて本気で意気揚々と彼女は語る。
はぁ、そうなんですかね……。
でもまぁ、悪くはない案だ。内容としてはかなり複雑で凝っているし、全容把握を否定する理由もない。
私はその案にのった。…ーー後悔するとは露知らず…。
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