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5. 私(彼)は、一体…?

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衝撃的な事実をつきつけられて早くも二日。あれから私たちはパソコンという機械を駆使して “私” という人物について調べ上げた。


「……随分と使いこなしてますね」


洗濯物を取り込んだ未乃さんが感心したようにこちらを見る。

私の手元には例のパソコン。画面には様々な私らしきイラストが表示されている。どれも特徴を掴んでおり、緑のクーフィーヤに薄黄色っぽい官服…私が当初着ていた服、に白髪ついでにそばかすをつければもう “私” の出来上がりらしい。

ついでに私が元暗殺者で現在は政務官である、という記憶は正しかったようでちょっと安心したのは秘密だ。


「何見てるんですか?」


案の定未乃さんは近寄ってきて画面を覗き込み不思議そうにこちらを見た。


「ジャーファルさんってこういうの見るんですね」

「……おかしいですか?」

「いえ。ただこう……色々な絵を見てると描けそうな気がしますね」

「え?」


そういえばまだ私の副業について教えてませんでしたね、そう言って未乃さんはソファに洗濯物を置いた。畳むのは後らしい。


彼女の家に転がり込んでもう二ヶ月が経つ。カレンダーを見れば9月と書かれていて、そろそろ夏が終わった頃。私がいたというシンドリアでの暦は分からないが、ここでは秋という時期だそう。


「実はですね、私、副業でイラストを描いていまして」

「イラスト…?」

「まぁ正確にはイラストというよりポスターのデザインとちょっとした絵を付け加える程度なんですけど」


そう言いながら自室から持ち出されるのはパソコンより少し大きい厚みのある画面付きの板。ついでにペンもある。

見た目の通り多少重さがえるのか「よ、っと」と掛け声と共に下されるそれ。未乃さんが電源を入れやがて表示されるのは様々な機能の項目と色と真っ白なキャンバス。


「ここに絵を描いたりして依頼されたポスターを作りデータを送るんです」


言いつつ専用のペンでサラサラとパソコンの画面を覗き込みつつ絵を描いていく未乃さん。色も軽くつけられ出来上がったのは画面の中の “私”。上手い。


「お上手なんですね」

「模写だけは得意なんです。ちなみに何も見ないで描くとこうなります」


サッと描かれる違うポーズのそれは……ん"?


「……………………」


あまりの落差に言葉を失う。

一応出来上がったそれは線が多くぐちゃぐちゃしており、なぜか顔のパーツの一つ一つが大きく影の塗り方は大雑把。頭も大きい。
目をキラキラさせたいのか『発光』と描かれたものを何枚も重ねもはやそこは白。トドメのピースは簡略化し過ぎて絵に合った感じがしない。

ていうかこれ、女の子にしか見えないのですが?


「あ、今日は上手くいきましたよ!ジャーファルさんって描きやすいんですね!」


は!?これで上手くいったんですか!?

さすがに本人に「下手」とは言えないが、かと言って「お上手ですね」とも言い難く。私はただ「そうなんですか」と適当に返すしかなかった。




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