「これ、で…いいかな?うーん…やっぱりこっちのラフな方…?」
部屋に置いてある鏡の前でいくつかの服を合わせることすでに三十分。
一人ファッションショーをするはめになるなんて、こんなことなら昨日のうちに決めておけばよかった。
昨晩は早く寝ることしか頭になかったから今更悔やんでも仕方ないけど。
そもそもいきなり誘ってきたアイツが悪い!!
「…あんたさ、待ち合わせそろそろじゃなかったっけ?」
相手に若干理不尽な怒りをぶつけてると、少しだけ開いていたドアから顔を覗かせた姉にそう言われた。
「分かってるよーっ!!服が決まらないのっ。ねぇ、どっちがいいと思う!?」
「そうねぇ…あんたにはこっちの方がいいんじゃない?」
意外にもあっさり返ってきた答えに逆に戸惑った。
「そ、そう?じゃあ、そうする」
「ていうかさ、あんた今日デート?」
その言葉に手が止まる。
「……はい?」
「ばっちり着飾ってんじゃん」
いやいやいや。
違うから。
決してデートじゃない。
男友達と映画見に行くだけだから。
「…デートじゃ、ない」
そう返した反論の言葉は自分でも情けなくなるほど小さな声だった。
着飾って、気がついて
(いや、まさか…まさかね)