(流星/響と彩音)





大学の中庭にて。


「うーん…」


ベンチに座り、ギターを抱えながら響が唸っているのを彩音は見つけた。


「響」


声を掛けると響はぱっと顔を上げた。


「あ、彩音」

「何か悩んでるの?」

「曲作りに行き詰まってるんだ」

「え、珍しい…」


正直な感想を述べれば苦笑が返ってきた。


「俺だって行き詰まるときもあるよ」

「だから中庭でも考えてたんだね。何か気分転換になれるようなことないかなぁ…」

「気分転換?」



考え出す彩音を響はしばらく見つめる。
そして、ふと思いついた。



「よし…」

「?」

「彩音、海行こう!!」

「…え?」


突然の申し出に彩音はきょとんと目を丸くした。




季節外れの海は人もおらず、穏やかだ。


「来たなーっ」


数日後、本当に彩音を連れて海にやってきた響は軽く伸びをしながらそう言った。


「響、なんで海なの?」


まだはっきりとした理由を聞いていなかった彩音は改めて響に尋ねる。


「海…つーか、波の音が好きなんだよ、俺」

「波の音…」

「穏やかになれるというか…なんか落ち着くんだよな。だからたまに来たくなって」



まぁ、一番落ち着くのは音楽だけど、と響は笑う。



「分かるかも、その気持ち」



そう言いながら、彩音は波打ち際に近づく。
打ち寄せる波がキラキラしていて綺麗だった。



「素直で優しい…子守唄みたいだなって私は思ってる」


だからね、と響の方へと振り返る。


「きっと優しい曲が作れるよ」


そう楽しそうに笑った。


「…そうだな」


そんな彩音を見て響もまた優しく微笑んだ。
そして、彩音を引き寄せ抱き締める。


「ひ、響?」

「俺も、ちょっと素直になってみようかなと」

「え?」

「…そばに居てくれて、ありがとう、彩音」



その言葉に彩音は目を見開いた。
響の素直な気持ち。



「…私の方こそ、ありがとう」



そう言って響の胸元へと顔を寄せた。
聞こえてくる鼓動がなんだか速い気がする。


「照れてる?」

「…意外と」



それでも回した腕は離さないまま、お互いに見つめ合う。
心地よい波音と心音を聴きながら、おでこをくっつけて2人で小さく笑った。






005:波音、心音、重なって
       (Coral/珊瑚)




(母なる海は曲を奏でていく)









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